交通事故を例に考えてみましょう。加害者側の不注意で、被害者にケガを負わせてしまったとします。このとき被害者には、ケガの治療費や車の修理費といった損害が発生しますよね。このように、故意または過失によって相手方に何らかの損害を発生させてしまう行為を「不法行為」といい、権利・利益が侵害された場合に、被害者が加害者に損害賠償を請求できるよう定めている法体系をまとめて「不法行為法」と呼んでいます。
不法行為法は、被害者を救済する"最後の受け皿"ともいわれ、傷害事件などの「犯罪被害」はもちろん、「プライバシー侵害」、「騒音被害」といったあらゆる損害が対象です。長時間労働による過労死、などの「労働災害」で遺族が会社を訴えたり、「医療過誤」で病院と争ったりしているニュースは目にしたことのある人も多いでしょう。また最近では、飲食店で悪ふざけをしている写真をSNSに投稿したアルバイト学生が店に訴えられた、という事件もありましたね。このような事件は、いずれも不法行為としても損害賠償請求しうるものです。不法行為法は、誰にでも関係する可能性のある、とても身近な法なのです。
民法のなかで、婚姻や親子関係などの「親族」、遺産相続などの「相続」についてまとめている法律群を「家族法」と呼んでいます。夫婦別姓や婚姻年齢の問題などは、皆さんにとっても比較的身近な話題ですね。
意外に思うかもしれませんが、現在の家族法は明治期に西洋法が入ってきて確立されたものです。例えば、いま当たり前のように考えられている「婚姻届」もこの時に導入されたもので、それ以前は日本でも事実婚状態だったのです。結婚や家族のかたちを法が作っている、と考えると、ちょっと不思議な感じがしませんか?
社会のありようが変化し価値観が多様化しているいま、民法が作られた明治期には想定していなかった様々な問題が現れています。仕事をしている女性の中には「結婚しても旧姓のままがいい」という人もいますし、事実婚や同性婚を望むカップルもいます。
本来、それらは個人の自由ですが、周囲の理解を得られないという現実があります。またそれだけでなく、現行の法制度のもとでは想定されていなかったため、男女間の婚姻と同じ社会的保障が受けられなかったりすることもあります。ゼミで学ぶ際に私が大切にしているのは、「多様な価値観」を認めることです。自分とは違うからと他者の意見を排除したり、法律で決まっているからと思考停止してしまったりするのではなく、「個々の生き方を尊重するためにはどんな法制度が望ましいのだろう」と考え続ける姿勢を持っていてほしいと思います。
いつも同じ顔ぶれの仲間と学んでいると、どうしても甘えが出てくるものです。それを打破すべく、年1回、他の大学と合同ゼミを実施しています。共通のテーマを決め、原告・被告または賛成・反対に分かれて討論会を行う「対抗戦」です。去年は、同志社女子大学、京都産業大学と、「NHK受信料の支払い義務は、ワンセグ機能付きの携帯電話所有者にあるのか否か」等についてディベートをしました。
実は昨年は、私のゼミはコテンパンにやられてしまったのですが(苦笑)、それもいい経験です。同年代でもこんなレベルの高い発表ができるのかと刺激を受けたり、自分たちの準備不足を反省したり。身をもって体験したことが、成長のきっかけになればと思っています。
将来、法律の専門職に就く人は決して多くないでしょう。それでも例えば、利害の対立する両者の立場に立って論理的に物事を考えられること、契約や雇用に関する基本的な法的知識を備えていることは、どんな分野に進んでも活かせる強みになるはずです。
また、いわゆる教養科目を広く学んでおくことは、変化の激しい現代社会を生き抜く力となるでしょう。社会人として働き始めると、学ぶ時間を確保することは思いのほか大変です。大学時代の貴重な4年間を大切に、貪欲に楽しんで学んでくれることを願っています。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。