皆さんは歴史が好きですか? 戦国時代や幕末維新は、ドラマや小説、ゲーム等でも人気ですね。少し前には「歴女」なる言葉も流行しました。逆に、歴史は試験のために仕方なく暗記していた、という人もいるでしょう。キリスト教がいつ伝来したとか、真田幸村の兜が何色かとか、そんなの知っても仕方ないじゃんと思っているかもしれませんね(笑)。
ただ、歴史好きな人にも嫌いな人にも共通している、非常に残念な点があります。それは、歴史を「現代社会とは繋がりがないもの」「いまは役立たないもの」と捉えがちなところ。これ、実はとても大きな誤解なのです。
例えば、最近ニュースになることも多い「EU(欧州連合)」。その原型は、1952年の欧州石炭鉄鋼共同体にあります。ドイツとフランスの国境、ルール地方にある石炭や鉄鉱石等を共同管理するために発足したものです。では、そもそもなぜこんな揉め事の起こりそうな場所に国境があるのか。その答えは、870年のフランク王国の時代の領土の再確定にあり、さらに遡れば、ローマ帝国時代の防砦リーメスに行き着きます。では、なぜローマ帝国はこれほどまでに拡大したのか......と思考をめぐらせれば話は尽きることはありません。
このように歴史とは、過去から現在まで連綿と繋がっている事象であり、「歴史を学ぶことはいまを理解すること」でもあるのです。そもそもEUの存立意義は何か、EU分裂の背後に何があるのかーー。現代社会の問題を深く理解するために、その歴史的背景を知ることは非常に有意義なのです。
コーヒー、野球、テニス、会社、漫画など、私たちの身の回りのあらゆるものには「歴史」があります。ゼミでは、学生の興味に沿って、そんな身近なものの歴史を紐解くことから始めます。
例えば、コーヒーの起源は一説によると、中東の修道院にあるそうです。ではなぜいま、コーヒー豆は中南米で栽培され世界中に輸出されているのか。その歴史を追っていくと、ヨーロッパの植民地をめぐるディープな歴史に行き当たります。1杯のコーヒーに対する見方が、これまでとはガラッと変わってくる気がしませんか。これこそが学びの醍醐味であり、その面白さを多くの学生に実感してもらいたいと思っています。
それから、歴史的な知識は、グローバル社会においては欠かせないものの一つでしょう。無自覚にヨーロッパ中心主義的な見方をして思わぬ軋轢を生んでしまったり、知識がないばかりに相手の自尊心を傷つけてしまったりすることもあり得るのですから。
フランスの歴史学者リュシアン・フェーブルは、「歴史学の対象は人間全体である」とし、人間全体(=教養)を理解せずに、その一部分(=専門科目)だけを取り出して学ぶことの弊害を説いています。誤解のないよう強調しておきますが、経済学や経営学、法学、政治学、哲学といった、専門的な学問はもちろん大変重要で有意義なものです。ただしそれらは、人間の多様な活動の「一部」であることを意識しつつ学ぶこと、そして人間全体を対象とした学びも深めていくことが大切なのではないでしょうか。これは、歴史学に限らず、あらゆる教養科目に通じることだと思っています。
まず、多様な人間関係を作ること。ゼミでもサークルでも、大学では色々な人に出会うでしょう。その際、自分とは異なる興味や考えを持っている「他者」を排除しないでほしいのです。コミュニケーションを積極的にとることによって、まず理解しようと努めること。そこから、また新しい世界が広がっていくかもしれません。そして、大いに本を読むこと。豊富な蔵書を備えた図書館が身近にあるいまの環境は、長い人生の中では本当に貴重です。いま読んでおかないと、将来後悔するかもしれませんよ(笑)。
大げさな言い方をすれば、僕らがやったこと・やらなかったこと、その全ては歴史の一部になるのです。そのことを自覚して、自分の行動に責任を持って日々を生きていってほしいと願っています。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。