正確には「メディアそのもの」ではなく、「メディアを利用している人」の行動や心理が、私のゼミの研究対象です。最近の卒論テーマは例えば、「LINEの利用と孤独感の関係」「Twitterのアカウントを2つ以上取得している人の使い分け方」「Instagramに写真を投稿する動機」などがあります。
いま、ゼミ生は2〜4年生まで合わせると43人。2年次は、専門書の輪読を通してメディア・コミュニケーションに関する基本的な知識や考え方を習得。レジュメのまとめ方やプレゼン法のスキルアップも目指します。3年次はメディア利用に関するグループ研究、4年次に個人研究で卒論を仕上げるという流れです。
「巨人・大鵬・卵焼き」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。1960年代、子どもや大衆に人気があるものの代名詞として流行しましたね。それから半世紀が経ったいま、世の中の多くの人が同じものを見聞きし、嗜好し、消費していた時代はとうに終わりました。
メディアも同様です。情報通信技術が発展するにつれて、メディアのサービス、デバイス、アプリケーションは、画一的なものから、個々のユーザーがニーズに応じて使い分けるものへと変容しました。例えばスマホ。搭載しているアプリケーションは、ユーザーごとに違います。Twitterという同じアプリケーションであっても、そこに表示されるツイート内容はフォローしている人によって当然違いますね。
メディアがこれだけ「カスタマイズ可能性の高いもの」になったいま、それを深く分析するためには、「使う側の視点」からアプローチすることが効果的だと考えています。
人は誰でも「自分がこうだから、他の人もそうだろう」とつい考えがちです。しかし現実には、例えば、自分の意図と違う解釈をされて相手とトラブルになったり、LINEの"既読スルー"が問題になったりと、コミュニケーションがうまくいかない例は多々あります。メディアに対する価値観や認識も、人それぞれ驚くほど違うのです。
こういった人の多様性について「どのように違うのか」「どんな共通点があるのか」という傾向を探るための手段が、「質問紙調査」「インタビュー調査」などの社会調査です。質問紙調査は、メディア・コミュニケーション研究においては非常にポピュラーな手法ですが、この設計は容易なことではありません。どんな質問項目を立てれば、必要な答えを導き出すことができるか、ゼミでは3年次に徹底して学びます。
3年次のグループ研究では、「国分寺市の18歳以上の人を対象に社会調査をすること」を条件にしています。これには明確な意図があります。LINEやInstagramなどの身近なメディアばかりに意識が向きがちな学生たちに対し、18歳以上という「年齢」の制限を加えることで、その関心領域をある意味、強制的に広げさせているのです。例えば、「インスタ映え」というテーマを考えても、シニアの方も調査対象に含まれているため、該当する対象者がかなり限定されてしまいます。そうしたテーマを研究する場合は適切な調査対象を設定する必要があります。3年次の学生たちは、幅広い年齢層が対象となりうるテーマを必死に考え、「テレビCMと購買意欲の関係」「娯楽のためのメディア利用」など、様々な研究に取り組んでいます。
3年生が取り組むアンケート調査の手法は「エリアサンプリング」です。国分寺市の町ごとの世帯数に比例する確率で地点を抽出。ランダマイズした番地を訪ねて、調査票をポスト投函しています。毎年ゼミ生と一緒にこれを行うので、僕はすでに国分寺市全域をくまなく歩き回りました(笑)。
日々の学生生活を送っていると、年齢や生い立ちなど、ある程度似通った人たちと過ごす機会が多いでしょう。ですが、社会に出てからはそうはいきません。50も60も年齢の離れた人が顧客だったり、あるいは上司だったりするかもしれません。世の中には多様な人がいることを自覚し、彼らの行動や心理を慮れることは、社会人として大事な要素の一つではないでしょうか。
また、根拠となる事実やデータを導き出す論理的思考力・構成力、自分の意見を相手に伝えるコミュニケーション力も、ゼミ活動を通して鍛えていけると思います。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。