皆さんは今日何を食べましたか? 例えばおにぎりなら、お米を育てた土の中にいる多数の微生物や昆虫の恩恵を受けていることになります。フルーツなら、花粉を媒介してくれた昆虫のおかげ。焼き魚なら、その魚の餌である小魚や、小魚の餌のプランクトンのおかげ......というように、食べ物一つとっても、私たちの暮らしは多様な生物によって成り立っていることが分かります。
ところがいま、人為的攪乱によって、種の多様性は急激なスピードで失われつつあります。例えばボルネオ島では、輸出用の木材調達やパーム油生産のために熱帯雨林の伐採が進んでいます。熱帯雨林が人工的・画一的な農地になると、希少な種を含む多くの動植物が生息できません。日本も深刻です。例えば、防潮堤やダムの建設により日本中で自然の砂浜が消失し、海洋生態系が壊滅的なダメージを受けています。生物多様性を失うことは、食物の供給のみならず、水の浄化や災害防止といった私たちの暮らしを守る機能や、豊かな観光資源などを失うことでもあるのです。
いま、さんご礁を含む海洋生物は荒廃の危機にさらされており、2050年までにさんご礁の95%が破壊されるという予測もあります。この再生のために日本各地で取り組まれているのが「サンゴの移植」です。今年埋め立てが再開された辺野古大浦湾でも、開発の"免罪符"のように移植が行われています。
しかし実際は、サンゴの移植だけでさんご礁生態系を復元することは出来ません。例えば、沖縄県のサンゴ礁保全再生事業報告書によれば、県内のある海域では5年間に移植した7.9万本のサンゴの9割が既に死亡しているそうです。そもそも、移植によって再生しようとしたさんご礁は約3ha、那覇空港滑走路増設事業で破壊される面積は約160haであることからも、人為的な復元が到底不可能であることが分かるでしょう。
私の活動は、「研究」「保全」の2本柱です。「研究」を通してどんなに画期的な発見や新技術を生み出しても、それだけでは生態系は守れません。「保全」のためには、利害関係者と対峙し政策転換や法規制の整備を促す、自然の経済的価値を生かした産業を提案する、一般の人たちに正しい知識を伝えるといった、多様なアプローチが必要なのです。これからも様々な人・団体と協力しながら、「研究」「保全」に精力的に取り組んでいくつもりです。
毎年5月頃、ゼミ生全員を連れて「海の生き物を守る会」が開催する海岸生物調査に参加しています。これは、砂浜や磯にいる生物を採集し、専門家と共にリスト化するという活動。今年は、鎌倉市の材木座海岸へ行き、ホタテウミヘビやカサゴなどの魚類、マツバガイなどの巻貝、イトマキヒトデやクモヒトデなどの棘皮動物、海藻など、70種以上の動植物を観察することができました。学生たちは、魚に付着した寄生虫を顕微鏡で見て「こんなところにも生き物がいるの!」と驚いていました。生き物に対する見方や認識が変わる、良いきっかけの一つになっていると思います。
ゼミでは、学生が各自決めたテーマで、パワーポイントを使って一人ずつ発表してもらいます。ウミガメの保護から原発問題まで、取り上げるテーマはそれぞれですが、自分が主役にならざるをえない状況に追い込まれると、皆必死に準備してきますよ。グループディスカッションもよく行いますが、負けたくないと思うからか一生懸命調べてきます。私は手取り足取り教えることはしない、いわば放任主義(笑)。ゼミでは「横並びのやり方や人と同じ考え方でなくてもいい」「好きなように自由にやればいい」とよく言い聞かせています。
大学時代、私はドイツ文学を専攻していました。ところが、大学4年の時に受けた一般教養科目の生態学があまりに面白くて、すっかり夢中に。当時の先生に「そんなに好きなら理転したら」と勧められ、数カ月間の猛勉強を経て大学院へ。そのままこの道へ入りました。
皆さんも、大学で自分の本当に好きなことに出会えることを願っています。面白い学問でも、夢中になれる部活でもいい。アルバイトから学ぶこともあるでしょう。そして色々な経験を通して、教養すなわち、自分の頭で「深く考えられる力」を磨いていってほしいと思います。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。