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2018年度 第37回 経済学部 羅 歓鎮 教授

64億人を思って学ぶか。12億人のひとりとして学ぶか。私の人生を変えそうだ。経済学部 羅 歓鎮 教授 64億人を思って学ぶか。12億人のひとりとして学ぶか。私の人生を変えそうだ。経済学部 羅 歓鎮 教授

LUO Huanzhen
東京経済大学 経済学部教授
中国人民大学大学院経済学研究科 修士課程修了、博士後期課程修了(経済学博士)。一橋大学大学院経済学研究科 修士課程修了。一橋大学大学院経済学研究科 博士後期課程単位取得満期退学。主な研究分野は開発経済学、中国経済論。著書に『中国の経済発展と教育』、『中国経済入門』(ともに共著)など。主な担当科目は、開発経済論。中国経済経営学会幹事、理事を経て、現在は監事。

開発途上国について学ぶ「開発経済学」とは?

 世界の人口約76億人のうち、日本のようないわゆる「先進国」に暮らしているのは約12億人に過ぎません。世界の大部分の人は「途上国」に住んでいるわけです。いかにして途上国の経済を開発させ、先進国に追いつくかを研究するのが「開発経済学」です。「開発経済学は」伝統的農村経済から近代的工業経済への移行に関連するさまざまな問題を研究しているのです。
 ちなみに開発経済学は、第二次世界大戦後に独立した国々を豊かにするべく、様々な試行錯誤を繰り返しつつ発展してきた学問領域です。従来の構造主義的な開発経済理論から新古典派開発経済理論を経て、現在はさまざまなアプローチを駆使して新しい開発理論を創ろうとしています。教育や健康などの人的投資、金融システム、援助や投資のあり方、環境をはじめとする持続可能な成長など、多様な側面を学べるのも特徴ですね。

なぜ途上国について学ぶ必要があるのですか?

 第一に、「市場」や「人材」はいま、途上国に豊富にあるからです。国連の推計によると、2050年に世界の人口は90億人に達し、特にアフリカ大陸の人口は倍増し25億人に上るといわれています。対して、少子高齢化が進む日本の人口は減り続けるでしょう。つまり、途上国という巨大マーケットと付き合っていくことなしに、日本経済が発展していくことは不可能といえます。これからの時代、どのような業界・企業にとっても、途上国の社会・人への理解を深めることは非常に重要なのです。
 第二に、途上国から先進国へと変貌を遂げた日本には、その成功体験を伝え、途上国の経済発展に寄与する役割と責任があります。日本はODA(政府開発援助)にも大変力を入れていますが、多種多様な途上国の実情を理解し、より有効な施策を模索していくことは、日本に対する世界各国の理解を深めることにも大いに役立つはずです。

最近の研究テーマ例を教えてください。

 私は常々「自ら学ぶ姿勢がないと、ゼミにいても何も身につかないよ」と言い聞かせており、羅ゼミの学生は皆、自分なりの問題意識を持って入ってきます。最近の研究テーマは、「日本の自転車シェアリングの可能性」、「インドネシアにおけるGIGエコノミー」、「外国人技能実習制度の問題点」、「フェアトレード」など様々。夏休みを利用し、フィリピンやインドネシアで調査してきた熱心な学生もいます。
 どんな研究でも、最も重視しているのは事実の把握とその原因の究明です。まず、ある現象に関する事実をしっかり把握しなければなりません。例えば、中国のシェアバイクに対して関心があるならば、各種データや現地調査などから実態を正確に把握します。続いて「原因究明」。なぜこれほどシェアバイクが普及したのか、政策や企業の戦略について調べ、その原因や普及メカニズムを探ります。最後に「応用可能性」の検討です。論文にまとめる過程では、学生間で意見が分かれ、激しく意見をぶつけ合うこともよくありますよ(笑)。

毎年、1週間ほどの海外研修に行くそうですね。

 2016年度はシンガポールとマレーシア、2017年度は北京と上海へ行きました。今年度はベトナムかタイへ行く予定です。わざわざ途上国へ行くのは、町や村の様子、人々の暮らしぶりなどを自分の目で見てほしいから。短い滞在期間であっても、普段の講義や書籍・メディアから得るものとは違う発見があるはずです。
 現地では、日系企業の工場見学を行います。これまでに、TOTO、トヨタ、キヤノンなど様々な企業やJETRO北京事務所や日銀北京事務所等の公的機関を訪ね、経営戦略や労務管理について話を聞かせてもらいました。また、現地の大学生との交流も大切にしています。同年代なのですぐ仲良くなりますし、互いへの偏見がなくなったり、語学力に感心したりと、楽しく有意義な時間を過ごしているようです。

大学の過ごし方のアドバイスをお願いします。

 学問は生き物です。先人がその時代が抱える様々な問題を考え、それなりの答えを出してきました。われわれは先人の答えを勉強しながら、今の時代が直面している諸問題に対して自分なりの答えを出さなければなりません。自分なりの答えは必ずしもただしいとは限らないが、学生同士の交流でより正確な答えに近づいていきます。そのようなプロセスこそが、知的発見の楽しみ、学問の楽しみです。皆さんにも、4年間に一つでいいので学問を通じた「自分なりの発見」をしてほしいと願っています。
 また、自らの問題意識でたどりついた答えを、人に伝え理解してもらう力を磨いてください。これを私は「コミュニケーション能力」というのだと思います。時代がどれほど変化しても生涯役立つ能力です。
 それともう一つ、色々な地域・国から学生が集まるこの環境で、ぜひ友達をたくさん作ってください!

Students'VOICE羅ゼミで学ぶ学生の声

清野真寛さん(経済学部2年)
1年の夏休みに1カ月間ひとりでフィリピンに行きました。そこで途上国の現状を目の当たりにしたことが、開発経済学に興味を持ったきっかけです。この前の海外研修では北京・上海へ。現地に行かないと本当の実情というものは掴めないなと改めて実感しましたし、都心だけでなく中国中央部などにもいつか行ってみたいです。
小野智也さん(経済学部3年)
中国をはじめとする途上国の経済に興味があり、羅ゼミに入りました。印象に残っているのは、スマホに関する研究。世界各国のスマホ所持率の推移を調べて、スマホメーカーの海外戦略などについても掘り下げました。ゼミでの議論の時間は、自分とは違う視点を得られるのでいつも刺激をもらっています。
竹田遼哉さん(経済学部3年)
1年の時に羅先生の授業を履修していて、「この先生のもとで学びたい」と思って羅ゼミを選びました。開発経済学のなかでもとくに興味を持っているのは、農業や教育分野について。最近はテレビのニュースでも気になりますし、背景の知識がある分、より深く理解できるようになってきたと感じています。
高橋美早さん(経済学部4年)
途上国の実態を学んだうえで、実際に現地を訪れて自分の目で確かめることができるのは羅ゼミの魅力の一つです。北京・上海での研修では、シェアバイクが街中で普及していることに驚き、研究テーマに。なぜ中国では普及し、日本ではなかなか広がらないのか、実態と背景を調べてまとめました。

※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。