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2018年度 第41回 現代法学部 澁谷 知美 准教授

ジェンダー論を学ぶと自分の景色が広がって幸せ体質になれそう 現代法学部 澁谷 知美 准教授 ジェンダー論を学ぶと自分の景色が広がって幸せ体質になれそう 現代法学部 澁谷 知美 准教授

SHIBUYA Tomomi
東京経済大学 現代法学部准教授
早稲田大学第一文学部卒業。東京大学大学院教育学研究科 修士課程修了。東京大学大学院教育学研究科 博士課程修了。主な研究分野は、ジェンダー論、社会学、教育社会学。主な担当科目は、ジェンダー論。著書に、『日本の童貞』『平成オトコ塾――悩める男子のための全6章』『立身出世と下半身――男子学生の性的身体の管理の歴史』ほか。

「ジェンダー論」とは、どんな学問ですか?

 生物学的性別とは別に、"社会的に作られた"性役割を「ジェンダー」といいます。これに注目しながら社会現象を分析する学問が「ジェンダー論」です。「女性は家事育児をするのが役割」「男性は外で稼ぐのが当たり前」といった言葉に、おそらく誰もが触れたことがあるでしょう。でも、女性は生物学的に外で稼げない身体になっているとか、男性には家事育児ができない遺伝子が備わっているわけではありません。性役割は生物学的要素のみによって決まるものではなく、時代や社会によって変化をしています。たとえば、江戸時代の小農民は夫婦ともに働いて、子どもを育てていました(注1)。
 ジェンダー論やフェミニズムというと、女性の権利だけを主張するものと思われがちですが、それは違います。例えば、"一家を養う稼ぎ手"という役割に苦しんでいる男性がいるなら、その抑圧からの解放を目指すのもジェンダー論の守備範囲です。男性の長時間労働を見直したり、男性の家事、育児、介護を応援するなど。それらは、女性が働きやすく、生きやすい社会を作ることと表裏一体でもあります。ジェンダー論とは、女性だけ、男性だけではなく、「誰もが自由に幸せに生きられる社会」を目指すものなのです。

日本の男女格差の現状を、どう見ますか。

 政府は「女性の活躍」を謳っていますが、それを実現するための政策は貧弱だし、社会の女性蔑視の風潮はまだまだ強いと見ています。世界経済フォーラムが昨年発表したジェンダーギャップ(男女格差)指数の日本の順位は144カ国中114位で、過去最低を更新しました。遅れているのは「政治参画」と「経済参画」。たとえば国会議員の女性比率は12.7%と、先進国で最低水準です。また、日本の女性管理職の比率はわずか12.9%であり、非正規雇用者の約7割を女性が占めています(注2)。
 こういった男女格差を引き起こす要因にはいろいろあります。管理職に占める女性の少なさについていえば、短い勤続年数が要因の一つです。が、すぐに辞めてしまうのは、女性が悪いのでしょうか?
 シカゴ大学の山口一男教授の説によれば、そうではありません。教授は、女性の離職に影響を与える要素として、「男性上司の思いこみ」を挙げます。「女性はどうせ辞める」「意欲に乏しい」と思いこむ男性上司は、責任ある仕事を男性部下に任せ、女性部下に任せません。すると、男性部下は経験値を上げますが、女性部下は成長の機会を逃す。そんなことが繰り返されると、女性部下は意欲を失い、退社します。「ほら、やっぱり」と男性上司は自分の思いこみを強化しますが、もともとは自身の行動が招いた結果。こうした負のスパイラルを断ち切る必要があります(注3)。

ゼミでは、若者へのインタビュー調査をするとか。

 インタビュー調査を実施するのは、自分たちの思いこみではなく、根拠に基づいて物事を論じる力を身につけてほしいからです。まず、ジェンダー論の文献を読んで問題意識を深め、ディスカッションをしながら質問項目を検討します。ゼミ生全員が1対1のインタビュー調査を行った後、KJ法(収集した情報をカードに落とし込み、グループ化して整理・分析する手法)を用いてまとめていくという流れです。
 インタビュー調査では、予想外の結果に出会うこともあります。例えば昨年度の調査では、「結婚後も妻に仕事を続けてほしいか」という若年男子への質問に対し、一番多かった答えは「妻の意思を尊重したい。ただし、家事育児は妻にやってほしい」というものでした。世間では、「イクメン」がもてはやされたり、「男性が弱くなった」と言われたりしていますが、実際は若い世代も「隠れ保守」であると分かり、実に興味深かったですね。

活発に意見を言い合う雰囲気は、どう作るのでしょう。

 毎年欠かせないのが、年度初めの3週間の「自己紹介ウィーク」です。これは、ゼミ生全員が1対1で自己紹介するというもの。趣味に関するアイテムなどの「私を語るモノ」を見せながら行います。互いを知ることが、「意見を言っても恥ずかしくない、大丈夫」という安心感・解放感につながるのでしょう、この3週間を経るとゼミの空気は180度変わります。
 さらに、他者に要求することや、断ることを苦手とする学生が多いと気づいてからは、ゼミに「アサーティブ・トレーニング」も取り入れています。例えば、友人に貸したお金を返してほしい時、急に頼まれたバイトを断りたい時、どんな言い方をすれば相手を尊重しつつ自己主張できるのか、実践を交えて学んでいきます。このテクニック、一度身につければ社会に出てからも使える"一生モノ"です。お得なゼミでしょう(笑)?

若い世代に、いま伝えたいことは。

 先行き不透明なこれからの時代、ボーッと生きていたら、いつの間にか個人の権利が侵害されるような社会になってしまうかもしれません。皆さんには常に、「こういう社会が理想である」というビジョンを持っていてほしいし、「自分たちの手でそんな社会を作っていくのだ」という気持ちでいてほしいと思います。そして、それを実現する力の源が学問です。大学では、教養・専門問わずできるだけ多くの学問に触れて、視野を広げてください。そして、誰もが自由に生きられる、より良い社会を作っていってほしいと願っています。

(注1)その様子を言い表した言葉として「夫婦かけむかい」があります。沢山美果子『出産と身体の近世』参照。

(注2)女性管理職の比率は厚生労働省『平成 28 年度雇用均等基本調査』より。係長相当職以上(役員含む)の割合。非正規雇用者に占める女性の割合は総務省『労働力調査(基本集計)平成29年(2017年)平均(速報)結果の概要』表7より算出。15~64歳の労働者を対象。

(注3)サイト「日経スタイル」掲載の山口一男教授へのインタビュー「進まぬ女性登用、男性の「思い込み」が影響」より。

Students'VOICE澁谷ゼミで学ぶ学生の声

森山慶也さん(経済学部4年)
いま自分が置かれている立場、いま自分が見ている景色から、人は物事を判断しがちです。もちろん僕自身もそうです。澁谷ゼミは、そんな凝り固まった価値観をぐっと広げてくれるような場所。女性・男性の垣根を越えた多様な視点で物事を見ている澁谷先生のご指導は、とても面白く勉強になります。
中島瑞貴さん(経営学部3年)
去年取り組んだテーマ「女性の結婚観と仕事」はとても興味深かったです。私自身は、結婚なんてまだまだ遠い話だと思っていましたが、皆で議論したり調査したりしたことで、自分の生き方を考えるきっかけにもなりました。ゼミでの正解のない研究は、大学で学ぶ醍醐味の一つだと思います。

※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。