いま日本の多くの地域、とりわけ地方の市区町村では、人口減少や高齢化が大きな問題となっています。最近では、存続が困難とされる「消滅可能性都市(*)」の存在も話題になりましたね。地域経済の再生、活性化はいまや、日本という国の存続に関わる喫緊の課題なのです。
私は長年、経営コンサルタントとして地域経済の活性化に携わってきました。大切なのは「地元の産業や資源を生かし育てる」ことです。自然や街並み、歴史的人物の存在、ユニークな地名など、何でもいいのですが、地元の魅力を掘り起こすことが肝要です。逆に「外からお金を落とす」、例えばショッピングモールを誘致しても、中長期的には地域の商店街が衰退してしまうなど、うまくいかない例は少なくありません。
そしてもう一つ、欠かせないのが「地元への愛着」です。当事者である地元の人たちが主体的に取り組む原動力になるのは、やはり"この街が好き"という思いではないでしょうか。
(*)日本創成会議が発表した、2040年までの間に20~39歳の女性の人口が5割以下に減少すると推計される自治体。全自治体の約半数に上る。
東経大がある国分寺はここ数年、駅北口の再開発工事による新住民の流入、商店街の衰退という大きな変化に直面していました。そこで、エリアの一体感と活気を取り戻すべく、私が実行委員会を指揮して作ったイベントの一つが「ぶんザニア」です。"国分寺のキッザニア"という名の通り(笑)、国分寺の商店街で子どもがリアルな職業体験をするというもの。これが大好評で、ネット事前予約の定員100人の枠が1分で埋まってしまうほど。商店街の方々はもちろん、この街に住み始めたばかりの子育て世代の人たちも喜んでくれました。2年前には、都が主催している「東京商店街グランプリ」で準グランプリも獲得しています。
国分寺の街には、いまのゼミ生も積極的に関わっています。現在、一般の方にお気に入りの店を投票してもらう「国分寺お店大賞プロジェクト」や、市内で使えるポイントカードの導入を目指す「国分寺ポイントプロジェクト」に取り組んでいます。
国分寺と合わせて、計4つのプロジェクトがそれぞれ動いています。「立川プロジェクト」のチームは、災害時にかまどになる「防災ベンチ」を駅前に設置することを立川南口商店街連合会に提案。社会実験として仮設置を実現し、市民にアンケートをとったり、実際に50人分の炊き出しイベントをしてみたりして、その成果を市や商店街に報告したところです。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに注目したのが「千駄ヶ谷プロジェクト」。新国立競技場(建設中)を有するこのエリアをもっと色々な人が利用しやすくしたいと、周辺にある4つの商店街とアクセシビリティ・マップを作成。実際に車椅子を使って店や道を回りながら、「車椅子で通れるか・利用できるか」「英語が通じるか」という2点をチェック。いま、さらにバージョンアップしたマップを作成中です。
地域性に加え、課題の異なるまちづくり活動の現場にゼミ生を送り出しています。どんな企画も、提案するだけならいくらでも夢を語れます。でも実社会では、限られた時間・予算内で、様々な事情と折り合いをつけながら形にしていくわけですから、そういう力をゼミで鍛えてほしいと思っています。
実際は私というより、街や街の人たちがゼミ生を育ててくれている気がします。相手は公務員や商売人の方々ですから、予算計画の甘さを指摘されたり、時にお叱りを受けたりすることもあります。そんな中で、マナーや振る舞いも気遣えるようになりますし、どうプレゼンすれば提案が通るのか、人を巻き込むにはどうするかといった戦略も本気で考え始めます。決してラクなゼミではないでしょうが、学生時代に成し遂げたことを胸を張って語れるというのは、今後の大きな自信になると思いますよ。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。