石油王ロックフェラーが、どんな時代背景・シチュエーションのもとで、どのような意思決定をしたのか──。例えばこんなことを知ることができたなら、まるでトップマネジメントの立場を追体験するような面白さがあると思いませんか? このように、企業家が「どのように企業を発展させてきたか」に注目し、その歴史について研究するのが「経営史」です。
19世紀後半からアメリカでは、鉄鋼業や石油、自動車などの様々な業界で、川上から川下までを統合した大企業が設立されるようになりました。すると、経済事象を分析するうえで、個々の企業家の役割というものが非常に重要になってきました。そこで20世紀に入ってから、新たにこの「経営史」という学問が生まれたのです。
金融機関の産業・企業発展には、固有の歴史的傾向があるのではないかと考えていますが、このような観点の経営史研究はほぼ未開拓です。ゼミでは、銀行・証券・保険などの産業の構造を明らかにしたうえで個別企業の企業行動を分析する、それも一時点ではなく長いスパンで分析するということに取り組んでいます。
東経大の図書館には、金融機関の社史、有価証券報告書や戦前の営業報告書などのデータベースも充実していますから、じっくり調べてもらいたいですね。また昨年度は、東京証券取引所や信金中央金庫、明治安田生命を訪問しました。こうして実際の現場で雰囲気を感じたり、当事者に話を聞いたりすることも大切にしてほしいと思います。
基礎的な知識をきちんと身につけるために、1章30ページほどのボリュームに2週間を費やしています。例えば先日取り組んだのは、18〜19世紀の英国金融について。1週目にサラッと読んだだけでも分かった気になってしまうものですが、では「金本位制の機能を理論的に説明できるか」と問うと、多くの学生が怪しかった(笑)。そこで翌週は、為替相場の安定、国際収支の調整という金本位制の機能について学びました。こういった理屈をきちっと押さえておくことが、後のニクソン・ショック以降の流れの理解にもつながります。多少苦労をしても、深く考えて学ぶ経験をゼミでは積んでほしいですね。
1997年のアジア通貨危機は、ヘッジファンドのある思惑によって一国が破綻寸前にまで追い込まれました。2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻によるリーマン・ショックを鮮明に覚えている人も多いでしょう。金融活動は経済を活性化させる一方で、このような不安定さも持ち合わせる、いわば"諸刃の剣"なのです。この金融をうまくコントロールすることは現代社会において大きな課題であり、その知識を備えていることは、社会人として非常に重要なことではないでしょうか。
たしかに、金融の仕組みやビジネスモデルは事業会社のそれよりも抽象的で難しいものですが、それを知っておくことで、ビジネス全体の構造や動きをより深く理解することができるはずです。
私は第一志望の大学に合格できなかったこともあり、入学当初はやや屈折した気持ちがあったかもしれません(笑)。でも大学のゼミで偶然、法人や株式会社に関する研究テーマに出会い、その面白さを知りました。その後、「近代イギリスの株式会社法」「保険史」と研究対象は変遷していきましたが、学部生時代に火をつけられた好奇心は、何十年経ったいまもずっと糧になっている気がします。大学のオーケストラで夢中になってフルートを吹いていた経験も、いま取り組んでいる「音楽の経営史」につながっているのかもしれません。
皆さんにも、ここで研究の面白さや醍醐味を知ってもらえたら嬉しいですし、どんな分野に進むのであれ、きっちり結果を残し自分のアウトプットに責任を持てる人間でいてほしいと願っています。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。