多くの人からお金を集めて事業を行う株式会社の仕組みは、社会科学による"史上最も偉大な発明"の一つといわれています。その起源は、17世紀初頭のオランダ東インド会社まで遡ります。所有と経営を分離させた株式会社という存在なくしては、現代社会の高度な発展はありえませんでした。今日の経済活動を支えるインフラです。その意味で最も偉大な発明といってよいでしょう。
株式会社には、出資者が会社の所有者となる、法人格を有する、出資者は出資額を超えて会社の債務に責任を負わない、などの特徴があります。こういった株式会社の基本的なルールを定めているのが「会社法」です。
製品データの偽装や粉飾決算などのニュースを目にしたことはありますよね。「会社法」はそういった事件が起きないようにする、いわば"防波堤"のようなもの。株式会社の内部者である「出資者」(株主)と「経営者」(取締役など)の利害、そしてそれら内部者と外部者である「債権者」(銀行や取引先、労働者)の利害をそれぞれ調整して、どのような体制であれば不祥事を防止し、健全な経営を保つことができるかを考えていきます。
近年の社外取締役をめぐる議論もその一つです。これは、ある種「ムラ社会」になりがちな日本企業に外部の目を入れることで、経営陣に良い緊張感をもたらすという狙いがあります。ただし、規制が過剰になっては機動的な企業運営ができなくなり、競争力の低下につながります。そこのバランスの取り方、経営の健全化のために必要十分な規制のあり方は、とても難しい問題です。会社法は、法律学でありながら、経済学や経営学と非常に密接に関わる学問の一つでもあるのです。
「出資者」や「経営者」という存在は、社会に出る前の学生にとっては縁遠いものでしょう。そこで、投資や経営判断の一端を体感すべく、ゼミで取り入れているのが模擬株式取引です。これは、仮想資金1000万円を元手に、実際の東証株価を用いて株式投資をシミュレーションするというもの。
投資先を選ぶ最初のきっかけは「好きなブランドの会社だから」でもいいのです。まずはホームページをクリックして、その会社を具体的に知るところから取り組みます。いずれは、企業会計や経営学の知識も使って有価証券報告書などのディスクロージャー資料を読み解き、さらに経営指標だけでなく企業統治や社会への貢献の状況を見極める力をつけていければと思います。会社を見る目は、就職活動やその先社会に出てからも役立つはずです。
日立製作所で約25年間、主に国際企業法務に携わってきました。その経験から得た問題意識をもとに研究を続けているのがオランダ会社法です。世界を代表する企業が本店を置くオランダの会社法は、ドイツとイギリスという二つの大国の影響を受けつつ独自の発展を遂げてきました。そのあり方は、ドイツ法とアメリカ法の影響を色濃く受けてきた日本にとっても学ぶべき存在です。日本企業の風土や文化にフィットする会社法とはどういうものか、今後も研究を続けていきます。
講義やゼミ以外の"単位にならないこと"にも、どんどん取り組んでください。部活やサークル、海外留学やボランティアはもちろん、立て看板で気になった学内イベントに足を運んでみる、学内のグローバルラウンジで英語のレッスンを受けてみるなど、何でも構いません。特に私がオススメするのは、少し無理をしてでも海外へ行ってみること。「一生日本で暮らすから関係ない」と思うかもしれませんが、あなたの就職した会社が数年後には拠点を海外に移すかもしれないし、来月から上司が外国人になるかもしれません。世界と関わること、英語を使うことから逃げてはいけません。
東経大は、幅広い学びに触れることのできる機会が実に豊富だと感じます。この恵まれた環境を活用し、"単位に換算できない"成果を手にして羽ばたいていってください。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。