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2018年度 第47回 経済学部 上野 麻美 教授

人生は、せいぜい100年。源氏物語で、1000年前にワープ。経済学部 上野 麻美 教授 人生は、せいぜい100年。源氏物語で、1000年前にワープ。経済学部 上野 麻美 教授

UENO Mami
東京経済大学 経済学部教授
お茶の水女子大学文教育学部国文学科卒業。お茶の水女子大学人文科学研究科日本文学専攻 修士課程修了。お茶の水女子大学人間文化研究科比較文化学専攻 博士課程単位取得満期退学。博士(人文科学)。主な研究分野は、日本中世文学、説話文学、仏教文学。主な担当科目は、日本文学、教養入門、アカデミック・ライティング。著書に『厭穢欣浄集 翻刻と解説』。

「源氏物語」の世界を楽しむ、がテーマだそうですね。

 源氏物語は、主人公光源氏の出生とその生涯、そして没後の話を含めた全54帖からなる作品です。恋愛模様を軸に、人生の苦悩、親子の情、政治的な背景が巧みに織り込まれた本作は、「日本文学の最高峰」とも言われています。
 このゼミが目指しているのは、自由に想像力を働かせて、源氏物語の世界を味わい、楽しめるようになること。そのために、時代背景はもちろん、仏教や神道の思想、風物や民俗、さらに作者である紫式部についても丹念に調べていきます。時間をかけて読み進めるうちに、学生たちも登場人物に感情移入して見解をぶつけ合うので面白いですよ。「源氏は一見、紫の上を大事にしているようで、実は誰よりも彼女を傷つけているのでは」とか、「40歳を過ぎてオジサン化した光源氏が、玉鬘に拒否されるのは痛快だ」とかね(笑)。

京都の合宿では、何をするのですか?

 上野ゼミのモットーは「体験する古典文学」。毎年、夏休みに京都で合宿し、実地踏査を行っています。「1000年前の話なのに現地に行って何がわかるの?」と思われるかもしれませんが、どれほど土地の様相が変わっても、稜線や地形、寺の佇まいなど、よすがとなるものは何かしら残っていて、その場に身を置くことで発見できることはたくさんあるのです。
 例えば、「夕顔」の巻で、源氏が夕顔を屋敷から連れ出し廃邸で愛し合うという場面があります(その後、夕顔は生き霊に取り憑かれて死んでしまうのですが)。作中ではかなり遠くへ連れ出したかのように描いてあるのに、その舞台とされる夕顔の屋敷跡から廃邸跡までを皆で歩いてみたら、わずか15分足らず。なんとも不思議だったのですが、その後、十二単を着る体験をした女子学生が「あの服装だったら、徒歩15分の移動が限界かもしれない」と。当時の貴族の女性が外出することの心情的な距離感が巧みに表現されているんだと思うと、作品の味わいがより深まったように感じました。
 また、皆で平安京周辺から、紫式部が源氏物語の執筆を始めたとされる大津の石山寺までのルートを辿ってみたこともあります。三方を山に囲まれた京都盆地を出て逢坂の関を越えると、さっと視界が開けて眼下に美しい琵琶湖が広がる。その解放感を味わったとき、紫式部がこの作品を書こうと思い立った心情が少しだけ分かるような気がしましたね。

先生のご専門は、中世の仏教文学ですね。

 鎌倉・室町時代の仏教文学の研究をしています。近年取り組んでいるのが、経典の「注釈書」の研究です。経典に記される教義を注釈したものですが、そこに様々なエピソードが挟み込んであります。これらは、当時の僧が庶民に布教活動をする際、仏の教えに親しんでもらうために例示として使われた"ネタ話"的なもの。源氏物語や今昔物語集の一節を引いたものや、巷の噂話のようなものまでが、注釈書の中にきちんと残っているんです。
 こうした注釈のエピソード部分は、仏教学においては注目されない分野ですが、我々文学の研究者からすると、こういった物語がどう利用され人口に膾炙(かいしゃ)していったのか、実に興味深いのです。メジャーとはいえない手垢の付いていない領域であることも、研究者としてはワクワクしますね。

古典をはじめとする「文学」に触れる醍醐味とは。

 私たち人間の一生は、せいぜい100年。見聞きできるものも出会える人の数にも、限りがあります。でも文学作品は、ただページをめくるだけで、時空を超えてどこへでも旅ができる、様々な人生を疑似体験できる。それが何よりの醍醐味ではないでしょうか。
 源氏物語なら、平安時代の暮らしに触れられることはもちろん、親子の愛、嫉妬心、虚栄心など、1000年を経て変わらない心のあり様に、きっと大いに共感することでしょう。読み手が独自に解釈できる古典ゆえの余白も面白いものです。人生経験を経て読み直せば、また受け取り方も変わるはず。知らなくても困らない、でも、傍らにあれば人生がずっと豊かになる──。それが「文学の力」だと思います。

Students'VOICE上野ゼミで学ぶ学生の声

萩原 彩さん(経営学部4年)
源氏物語は、漫画『あさきゆめみし』や高校の授業で触れた程度だったのですが、せっかくなら教養として知っておきたいと、このゼミを選びました。仏教の思想や紫式部の半生などを学ぶにつれて、最初は分からなかった歌の真意に気づいたり、台詞に織り込まれた作者の思いを感じ取ったりできるように。知るほどに読み方が深まっていく感覚は、とても新鮮でした。これから上野ゼミに入る人が羨ましいくらい、このゼミが大好きです(笑)!
塚本雄大さん(経済学部4年)
好きな登場人物は、六条御息所と末摘花。特に末摘花は、源氏からの連絡が一切ないのに10年待ち続ける一途さがすごい。僕自身は誰かを待たせたりしませんよ(笑)。ゼミでは、現代語訳とともに少しずつ読み進めていくので、古文が得意じゃない人も大歓迎。ぜひ多くの人にこの面白さを知ってほしいです。僕が20代のいま思うことと、将来父親になって感じることは違うはず。何度も読み直して味わいたいです。
福田満里奈さん(経営学部4年)
最近ではTVドラマを見ていても、「源氏物語で似たような修羅場があったな」などと思うことがあります。それだけ普遍的なものが描かれているってすごいですよね。この前、紫の上の最期の巻を読んだ際は、彼女の幼い頃からを知っているので(笑)、なんだか生涯を見届けたような寂しい気持ちに......。上野先生は、ゼミ生皆のお母さんのような、あたたかい先生。毎週ゼミの時間が来るのが楽しみです。

※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。