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2019年度 第54回 コミュニケーション学部 南 隆太 教授

日本のマンガ、アニメ、ゲームには意外に「シェイクスピア」ネタが多い。コミュニケーション学部 南 隆太 教授 日本のマンガ、アニメ、ゲームには意外に「シェイクスピア」ネタが多い。コミュニケーション学部 南 隆太 教授

MINAMI Ryuta
東京経済大学 コミュニケーション学部教授
神戸市外国語大学外国語学部英米学科卒業。関西学院大学大学院文学研究科 英文学専攻 博士前期課程修了。英国国立ウォリック大学(Univ. of Warwick) 英文学修士課程修了。主な担当科目は、外国文学、英語、英語・文化論。著書にThe Routledge Handbook of Shakespeare and Global Appropriation, Shakespeare's Asian Journeys : Critical Encounters, Cultural Geographies, and the Politics of Travel, Shakespeare and the Second World War: Memory, Culture, Identity(いずれも共著)他。

「海外から見た日本」がゼミのテーマですね。

 今年度は、海外で日本について学んでいる学生用に書かれた"THE JAPANESE MIND"という英語の本を題材にしています。書名の通り、日本の社会や文化、精神性について書かれた本で、各章のテーマは「Aimai(曖昧)」「Gambari(頑張り)」「Chinmoku(沈黙)」「Bigaku(美学)」など様々。事前に要約レポートを提出し、ゼミの時間は4〜5人のグループに分かれてディスカッションをしています。
 「海外から見た日本」を扱う理由はいくつかあります。一つは「多様な考え方に寛容であってほしい」から。今や、友人や会社の同僚が日本人でないことがもはや当たり前の時代です。異なる文化的背景を持つ人とコミュニケーションを図る際に大切なのは、そういう価値観もあるのか、こんな見方があるのか、とまず受け入れること。日本や日本人がどんな風に「誤解」されているのかを知ることもその一つです。自分とは考えが違うと拒絶するのではなく、まず受け入れた上で、自分の考えについても確認し、意見を言ったり反論したりできるようになってほしいですね。
 それから「情報リテラシーを鍛える」ため。最近は、インターネットでも本でも雑誌でも、書かれたものを鵜呑みにしてしまう人が少なくありません。私たちが目にする情報には、間違いも、思い込みや誤解によって書かれたものもあります。自分の国について記されたものなら、これは違う、と指摘しやすいでしょうから、そういう意識を持って情報に触れる訓練になればと思っています。

翻訳されたものではなく、原書を読むのはなぜですか?

 英語力の向上という面はもちろんですが、「言葉を超える不自由さを実感する」「曖昧な理解で終わらせない」という意図もあります。日本語には、英語に直訳できない言葉がいくつもあります。例えば、「義理」も「頑張る」も、そのニュアンスを的確に言い表すただ一つの単語はありません。これが、異なる言語や文化を理解する難しさの一因でもあります。
 もし「頑張る」のニュアンスを英語で説明しようとするならば、当然、日本語による正確な理解が不可欠です。日頃当たり前のように使っている言葉や概念の"輪郭"をよりクリアにする、というイメージでしょうか。日本語ならサラサラと読み飛ばしてしまう箇所も、英語という引っかかりを作ることによって、より一層理解を深めることができるのです。
 ゼミ生は、英語が得意な学生ばかりではありませんが、一定量の英文を毎週読み続けることで、みんな確実に力をつけています。これからは、要約レポートの作成やディスカッションも、徐々に日本語から英語へと切り替えていくつもりです。

毎年、海外でゼミ研修をされていますね。

 昨年と一昨年は東京経済大学が提携している台湾・台中市の静宜大学を訪れて、10日間の研修を行いました。大学でマスコミュニケーションに関する講義を受けたり、台湾の学生に観光案内をしてもらったり。同年代の若者同士ですから打ち解けるのはあっという間で、この前は韓国のあるアイドルグループの話で意気投合し、韓国語や英語で一緒に歌う姿も見られました。アジア園における文化のボーダーレス化は本当にすごいですね。時にはすれ違ったり言い合いをしたりしていることもありますが、それもよい経験だと思います。来年はアメリカのサンディエゴでの研修を予定しています。自分の目で見て、触れる経験は、短期間でも意義深いですね。
 もうすぐ(インタビューの翌週)、台湾の学生たちが東京経済大学にやって来るので、まさに「海外から見た日本」の魅力を意識しつつ、充実した日本滞在にしてもらうべく、ゼミ生たちと準備をしているところです。

先生の専門は、シェイクスピアだそうですね。

 シェイクスピアって、堅苦しくて、難しくて、古臭いっていうイメージでしょう? まぁその通りなんですが(笑)、ここ10数年で私自身の研究対象は随分変わってきました。というのも、メディアの変容とともに、日本やアジアにおけるシェイクスピア作品の流通・消費のあり方が様変わりしたからです。
 いま、日本のアニメや漫画、スマホゲームなどには、シェイクスピア作品が数多く登場します。特筆すべきは、これが翻訳・翻案といった概念とは全く異なり、ゲームやアニメといった各メディアの特徴に合わせて、登場人物やセリフ、作家自身を"ネタ"として利用しているということ。
 当初、私はこのことに少なからず抵抗があったのですが、調べれば調べるほど奥が深い。例えば「サイコパス」というアニメには、シェイクスピアの戯曲「タイタス・アンドロニカス」のセリフがちりばめられているエピソードがあります。その引用の仕方は実に見事で、原作のセリフをまるでパッチワークのように組み合わせ、新たなストーリーとして成立させている。これは、作品に対する深い洞察と理解がなければ絶対にできません。こういう制作者の方々のお仕事に接すると、ある種の感動を覚えますね。
 今秋にイギリスの出版社から発売されたシェイクスピアのハンドブックでも、日本におけるシェイクスピアの流通・消費について執筆しています。世界のシェイクスピア研究者や学生がどんな反応を寄せてくれるか今から楽しみです。それにしても、学生時代にイギリス演劇の研究を始めた頃は、30年後に自分がアニメやゲームについて語っているとは予想もしていませんでした(笑)。面白いものですね。

高校生に向けてメッセージをお願いします。

 将来の道を決められなかったら大学においでよ、と伝えたいですね。これは僕の持論ですが、あまりに早く進路を絞り込むのはいかがなものかと思うのです。医学部などを目指す場合はそうもいかないのかもしれませんが。高校までと比べて大学では、人も学びも遊びも、その世界は格段に広がります。そこでは必ずや新しい発見が、心を震わせる出会いがあるはずです。偏差値やブランドではなく、ぜひ、あなた自身が面白そうだと思える大学を選んでください。将来やりたいことが見つからないのは、限りなく「自由」だということ。大いなる可能性に満ちた皆さんと、キャンパスで会えるのを楽しみにしています。

Students'VOICE南ゼミで学ぶ学生の声

松尾侑紀さん(コミュニケーション学部4年)
以前、カナダ人の友人と過ごしていた際、「なぜ喋らないの?楽しくないの?」と聞かれて、ちょっとしたケンカになったことがあります。日本では黙っていても落ち着く関係っていうのがあるんだよ、と説明して誤解は解けたのですが、こんなところにも文化の違いがあるんだなと実感しました。ゼミで議論が盛り上がったテーマは「本音と建前」。この線引きを海外の人にどう説明するか、と話し合いながら、私たちが日頃この二つをいかに自然に使い分けているかを痛感(笑)。海外からの視点を知ることは、自分たち自身を知ることでもあるのだと思います。
青木梨沙さん(コミュニケーション学部3年)
東京経済大学が第一志望ではなかった私は入学当初、全くやる気がありませんでした。でも、1年生の時に受けた南先生の「外国文学」の授業がすごく面白かったので、迷わず南ゼミへ。南先生の人柄も、英国紳士風のファッションも、英語と関西弁のバイリンガルなところも、大好きなんです(笑)! ゼミでは、日本人への偏見や誤解を知るとともに、私自身も「○○人ってこうだよね」といった先入観を持ってしまうことがあるのだと気づかされます。高校生の皆さんには、大学は好きなことを見つけたら絶対に楽しくなるよ、と伝えたいです。
芳賀彩香さん(コミュニケーション学部3年)
もともと英語が好きだったので、もっと力を伸ばしたくてこのゼミを選びました。ゼミでは、英語を読み解く力がついたことはもちろん、「物事を批判的に見る」姿勢を鍛えられています。それまでの私は、新聞もテレビも、「ふーん、そういうものか」と信じがちでしたが、いまは一つの情報として受け止めて、それが本当なのか、自分はどう考えるのか、と思考できるようになってきたと思います。東京経済大学には、難関資格やTOEICなどの表彰制度、特待生制度など、頑張った人が報われる制度が多く、学ぶモチベーションが自然と高まります!

※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。