一人ひとりが自分にとっての最高のかたちで就職活動を終えること。これが丸谷ゼミの目指すゴールです。いまの学生に将来の展望を尋ねると、多くの人は「仕事を通して世の中に貢献したい」「家族を持ってしっかり働きたい」といった堅実な夢を語ります。就活はそのスタートラインに立つための第一関門ですから、その確実な突破のためにここでは徹底して学生をサポートしているのです。
就活に役立つゼミというと、小手先のアピール方法などを教えていると誤解されることがありますが、それは全く違います。丸谷ゼミは、相手にアピールするのにふさわしい中身を鍛え、その魅力を正確に相手に伝える力を身につけるための場所。マーケティングという学問を使いながら研究を深め、同時に学生自身の魅力を正確に伝える「マーケティング力」を高めていきます。
丸谷ゼミでは各自が思い入れの強いテーマを設定し、個人研究に取り組みます。このとき時間をかけるのが、なぜその研究をする必要があるのか、自分が取り組むべき理由は何かといった「問題意識」の明確化。個性と熱意がにじむ研究は、就活の際も絶好のアピール材料になります。確固たる問題意識のもと、現状分析を通して「問題の構図」を明らかにし、「課題解決の方法」を提示。1万字程度の論文(研究ノート)に仕上げるこの研究は、後の卒論執筆にも役立ちます。
例えば今年度、カフェ好きの学生が取り組んだテーマは「国分寺カフェの魅力を東経大生に認知してもらうには」。国分寺崖線によって生み出される豊かな湧き水を誇る国分寺には全国からコーヒーファンが押し寄せるカフェがいくつもあるのに、学生の大部分がその存在を知らずにチェーン店に流れている現状はもったいない、というのが彼女の主張。フィールドワークやインタビュー調査を経て、若い世代にカフェの魅力を広める方法を提言しました。ちなみに彼女は、第一志望だったコーヒー会社の内定を勝ち取りました。ほかにも、かつて自身が引きこもりだった際に出会ったeスポーツを題材にした「日本においてeスポーツで生計を立てるには」、祖母が機械による注文に困った経験からヒントを得た「ファミレスを高齢者が利用しやすくするには」など、テーマは様々。求めているのは、斬新さやユニークさよりも明確な問題意識。それが研究の質を高める第一歩だと考えています。
就職活動では言うまでもなく「他者から見た自分」を評価されます。周りの人が感じる自分の魅力って何だろう、自分の本当の強みはどこにあるんだろう──。通常一人で取り組むことの多い自己分析をゼミの仲間同士で協力して行うのが"ランチタイムミーティング"です。自身で手作りした家系図や家族との思い出の写真を見せながら家庭環境やこれまで影響を受けた人物について説明したり、いまの性格を形づくった原体験を語ったり。運営は原則すべて学生に任せているため、「学内よりも解放的になれるカフェでやりたい」「男女ペアの方が新たな気づきを得られるのでは」「フォローアップの機会を作ろう」などの意見も柔軟に取り入れています。
このほかにも、履歴書を検討する会、業界研究、OB・OG講演会、人事のプロを招いた面接練習など、就活のための様々な活動を年間を通して実施しています。
私はメキシコシティで生まれ、小学校高学年時はロサンゼルスで過ごしました。あるとき、メキシコ国境付近で、私が家族と乗っていたタクシーに同い年くらいの少年が走り寄ってきて、窓拭きの仕事を始めたのです。先進国アメリカと途上国メキシコの格差を目の当たりにして、幼心に大きなショックを受けました。その光景が忘れられず「メキシコのためになる仕事をしたい」と研究者への道を志したのです。
いまは、中南米の経済状況等を広く伝えることをライフワークにしつつ、グローバル・マーケティングを専門に研究しています。拙著『ウォルマートのグローバル・マーケティング戦略(増補版)』は、中南米を中心としつつも、ウォルマートが出店するアジア、アフリカを含めた発展途上国を中心に、市場のいまをウォルマートの経営戦略を通して見つめたものでもあります。日本とメキシコという二つの祖国を持った自分だからこそできる研究を、今後も続けていきたいと思います。
関心のあるテーマが分からない、という学生は少なくありません。でも別に大げさに構える必要はないのです。まず手始めに、この1週間で「心が動いたこと」を書き出してみましょう。ときめいたこと、嬉しかったこと、不快だったこと、憤りを覚えたことなど何でもOK。10個目くらいまでは、おそらく誰もが感じるような事柄が並ぶでしょう。でも30個目くらいにはきっと、「あなたらしい何か」「他の人は見過ごした何か」が出てくるはず。それが新たなチャレンジのヒントになるかもしれません。興味・関心の向く対象が一つでもあれば、そして、社会科学の学びを通して物事の解釈の仕方を習得することができれば、世の中の見え方は変わります。皆さんが、それぞれにとっての幸せな人生を歩めるよう祈っています。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。