「若年層の仕事に対するモチベーションに影響する要因はなにか?」「大学生の就職活動と雇用システム国際比較」「働き方改革がうまくいく組織とそうでない組織の違いは?」「学生と社会人が求める職場環境の差異は?」など、ゼミ生たちは経営管理論を軸にした多様な研究テーマに取り組んでいます。
経営管理論とは、適切な管理という立場から、企業組織内だけでなく組織外も含めて見渡す学問のこと。戦略、組織、人材、生産、調達、技術、財務などの管理を総合的に扱うものであり、ある意味経営学の中心に位置する学問といえるでしょう。
ほかにも、「なぜ任天堂は家庭用ゲーム事業で業界上位を維持できるのか?」「マンダムがインドネシア市場で売り上げを伸ばしている要因は?」といった、経営戦略論よりの研究に挑むグループもあります。
原口ゼミは、自分たちで決めて、調べて、まとめていこう、というのが基本スタンスです。ですから、学生たちがディスカッションをしている間、私はぐるぐる歩き回って聞き耳をたてているだけ(笑)。先回りしたアドバイスや誘導はしません。その代わり、彼らが助言や支援を求めてきた時はじっくり相談にのりますし、必要な知識やデータの提供、人の紹介などは、私の経験や人脈をフル活用してバックアップします。
学生に求めるのは、研究に対して正直・誠実であること。そのため、調べていくうちに問題意識が移り変わっていったり、インタビュー取材をしたいと急な要望が上がってきたり、「統計学が必要だから今から勉強しようね」という大変な事態になったりすることも(笑)。それでも、真剣に向き合うからこそ直面する研究過程の紆余曲折をもっとも大切にしています。
1年間の研究成果は、学内でのゼミ研究報告会で発表するだけでなく、研究協力者への報告、他大学の大学院生や社会人との交流などにも生かされます。慣れ親しんだ仲間内とは違う、アウェーでのプレゼンや討論も、学生にとっては得難い経験になると思っています。
今年の8月に約1週間、タイのバンコクを研修で訪れました。現地の企業や病院、リハビリ・介護施設などの訪問が目的です。シートベルトの素材を作っている日系企業では、日本とは異なる労働環境下で現地の従業員をマネジメントする難しさややりがいを聞くことができました。また、介護食を作っている企業で聞いたのは、文化の違いによる意外な苦労話。例えば、現地の栄養士さん向けに「減塩:△ 心臓疾患:×」といった、利用者の状態に適した商品を示す対応表を作ったところ、「○△×の意味が分からない」と突き返されてしまったそうです。日本人にとっての当たり前が決して当たり前ではないこと、異文化の中でビジネスをすることの現実を、学生たちはひしひしと感じたことと思います。
ほかにも、現地学生との交流や市内の探索など、予定をぎっしり詰め込んでいたため、毎朝5時起きという超ハードスケジュールでしたが、学生たちは皆驚くほどイキイキしていました。食事や買い物にもすぐ慣れて、一緒に行こうか?と聞いたら「あ、大丈夫です」と断られたことも(笑)。初めて海外に行った学生も多かったのですが、それぞれが自信をつけて、ひと回り成長した姿を見せてくれたことを嬉しく思います。
ご存じの通り、介護をはじめとする社会保障分野の労働者不足は極めて深刻です。私は、「どうすれば離職率を下げられるか」「皆が生き生きと働ける人材マネジメントとは」「外国人労働者のモチベーションを高める組織のあり方とは」「介護ロボットの導入が職員や利用者にどう影響するか」「ICT機器での見守り支援の効果」など、様々な観点で長年研究を続けています。大学卒業後、私は一般企業で人事・労務管理業務に従事していましたが、その時の経験が、現場で起こる多種多様な問題を肌感覚で理解したり、経営者にインタビューしたりする際にも生きているように思います。
介護分野における課題は山積みですが、それはつまり、自分の研究が世の中の役に立つということ。そのことが研究を続ける何よりの原動力になっています。
大学というのは、集団に紛れてなんとなく過ごしていても、単位を取れば卒業できてしまう所です。でもそれだけではあまりにもったいない。特に東経大は、中規模大学ならではのアットホームな雰囲気があり、教員と学生の距離が本当に近いですよね。この環境を最大限に生かして、教職員ともっと積極的にコミュニケーションをとることをお勧めします。授業や研究の内容についてはもちろん、社会人としての様々な経験や考え方に触れることもとても有意義だと思います。
東経大で4年間を過ごした皆さんが社会に出る時、自分の手・足・頭を使って自信を持って前に進める人、そして、失敗や挫折にも負けないレジリエンスを備えた人へと成長してくれることを期待しています。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。