「高校野球」といえば、夏、青春、球児の涙、といったイメージが思い浮かぶのはなぜでしょう? オリンピックに、世界中の人が熱狂するのはどうしてでしょう?――普段、「当たり前」として見過ごしている現代の文化は、私たちを取り巻く「メディア」の影響を受けて形成されているものが少なくありません。私たちは無意識のうちに、メディアによって作られた"色眼鏡"で物事を見ていることがあるのです。このゼミでは、どのようにして今日のメディア社会が作られたのか、歴史社会学的なアプローチで検証していきます。
「英字新聞」を例に考えてみましょう。日本人の手によって日刊の英字新聞が初めて発刊されたのは、1897年のこと。創刊の辞には「これからは発信の時代」との言葉が掲げられていました。「だまっていては世界に誤解されてしまう、英語という国際言語でもっと日本のことを発信していこう」というメッセージです。
......おや、と思いませんか? 約120年もの時を経た今日、クールジャパンの推進をはじめ、まさに同じような機運が高まっていることに気づくでしょう。当時と何が共通し何が異なるのか、なぜ似たようなスローガンに行き着くのか、今後はどうすべきなのか――。現代を読み解く論点が、歴史を知ることによって浮かび上がってきます。「過去」を知ることは、「現在」の社会をより鋭く洞察すること、そして「未来」を構想することへとつながっていくのです。
春学期には、文献購読を通してメディア文化の基礎知識を習得します。毎週、担当者が文献をレジュメにしてプレゼンするのですが、この時のルールは「全員が事前に文献を読み、前日までに専用WEBサイトにコメントを書き込む」こと。参加者全員が疑問点や気になる点を明らかにしてゼミに臨むことで、議論はとても有意義なものになります。時には白熱しすぎて時間が足りなくなることも(笑)。自分なりの視点でコメントや質問をする力は、この方法によってかなり鍛えられたと思います。
本当に興味や関心のある事を見つけるのは、意外に難しいものです。日常生活で大事にしてほしいのは、「なんか気になる」「違和感がある」といった"心の摩擦"を敏感にキャッチすること。それが研究の出発点です。これまでに、「漫画はアメリカでどのように受け入れられているのか」「京都はなぜ国内外から愛されるのか」「文化振興にとって海賊版は本当に「悪」なのか」など、学生たちは実にユニークなテーマで研究を進めてきました。
フランスの船乗りの間に伝わる「たゆたえど沈まず」という言葉があります。どんな荒波のなかにあっても沈まずに耐えしのげば、やがて嵐は去って夜は明ける......人生もきっと同じです。困難な局面に直面した際、時にはじっと耐え、時には踏ん張って、そして何より、途中で投げ出さずに歩み続けることが大切なのだと思います。皆さんには、ここぞという時に力を発揮するための「知性や教養」を身につけ、苦しいときに支えあえる「仲間」を大切にして、心豊かな人間に成長してほしいと願っています。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。