年金保険料の未納、労災隠し、生活保護費の不正受給、保育所の待機児童や児童虐待、など、皆さんが社会保障にまつわるニュースを目にする機会は多いのではないでしょうか。年金や生活保護をはじめとする社会保障制度は、人生における様々なリスクが発生した時に、私たちを救済するためのもので、生活に非常に深く関わっています。
実は、「社会保障法」という法律はありません。社会保障にかかわる法の総称を社会保障法と呼んでいるのです。たとえば、生活保護においては、生活保護法という法律があります。それだけでなく、実際に生活保護について勉強する際には、いろんな法律を勉強する必要があります。生活保護をもらう前に、親族に援助することを求める場面では、民法の「家族法」、生活保護を不正受給していたから取り消すというときには、「行政法」といったように、いろんな法律が関係しているのです。
たしかに色々な法の知識を必要としますが、いきなり知識・理論を詰め込むことはしません。東経大の現代法学部は、その名の通り"現代"の事柄に問題意識を持つことを大切にしており、橋爪ゼミでも学びのスタートは「いま社会が直面している問題」です。
例えば、新聞を見て「過労死」に関心を持ったら、「労災にはどんな制度や法律があるか」「裁判例はどうなっているか」などを調べ、さらに「現状の課題は何か」「どんな解決策があるか」を考えていくのです。研究を進めるうちに、「過労死が起きてしまった後の補償よりも、過労死を防ぐための労働管理について考えたい」などと思いがけない方向転換をする学生もいますが、自分の頭で考え、自分なりの答えを導き出すことに何より重きをおいています。
社会保障問題というのは、個人の「価値観」が色濃く反映されますから、学生同士の意見が分かれることはしょっちゅうあります。実はそれが、橋爪ゼミでグループワークをする狙いの一つでもあります。
例えば、少子化に対する政策提言を考える場合。「働きながら子育てできるように保育サービスを強化すべき」という意見もあれば、「仕事をせずに家庭で育てる人にも支援は必要だ」という考え方もあります。「男性がもっと育児参加できる環境を」「子どもを産みたくない女性もいるはずだ」といった意見もあるでしょう。正解はありません。色々な価値観を認め、多様な角度から物事を考える力、相手に配慮しつつ自分の意見を主張する力を身につけてもらえればと願っています。
毎年12月に、一年の集大成として、経済学部を含めた4ゼミ対抗のディベート大会を開催しています。秋学期の始めから下調べ・発表・修正を繰り返して政策提言を練り上げ、本番で意見を戦わせるのです。密度の濃いグループワークと本番を経験した学生たちは、幅広い視点でものを考える、後輩をリードしながらグループの方向性をまとめていく、明確な意図をもって質問をするなど、たくましく成長した姿を見せてくれます。
高校生までの間に、本当に興味のあることを見つけるのは難しいことかもしれません。受験勉強に必死になっていたらなおさらでしょう。でも大学は、自分が面白いと感じたものに向き合って存分に勉強できる場です。先入観を取っ払って未知の分野に足を踏み入れたり、自分と考えの違う友人と話してみたり。あらゆるところに散らばっている"好奇心の種"を見つけ、育てて、大学生活を大いに楽しんでくださいね。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。