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アカデミズムとは、専門性をとことん極めることですよね?

はい。でも、

できるだけ広い視野を持つことも同じくらい大切です。
専門外の世界に踏み出すことで、見えてくるものがたくさんあります。
例えば、学長の岡本英男教授、経営学部の金鉉玉教授らが中心となって運営している「世界システム研究会」。
そこで、本学の教員たちは分野を超えた激論を交わします。
積極的に他流試合に参加することで、研究のウデを磨いているのです。

財政赤字は当たり前?
リスク開示の利点って?

──  「財政学」と「会計学」、どちらも実社会に直結した学問ですね。

岡本 ご存じの通り、90年代のバブル崩壊以降、日本は約30年にわたって低成長の時代が続いています。その間に膨れ上がった国債はいまやGDPの2倍以上。赤字財政の再建は、財政学の主要な問題の一つです。

一方、「財政赤字は現代の資本主義の“ノーマルな状態”であり、問題にはあたらない」という学説が、近年注目されている「現代貨幣理論(MMT)」です。自国通貨を自国の中央銀行が発行できるのであれば、「インフレにならない限り、財政赤字を気にする必要はない、むしろデフレ下では財政赤字こそ望ましい」という考え方です。

MMTは異端の学説として様々な批判の声がありますが、私は一定の条件下では有効だと考えています。そして、そういった見解を学会やシンポジウムなどで積極的に発信しています。これまで培ってきた財政学の知見を活かし、現代社会にメッセージを伝えることは、研究者が果たすべき役割だと思うからです。金先生の会計学も、まさに実社会を映す学問ですよね。

  そうですね。私はディスクロージャー、つまり企業の情報公開を専門に研究しています。株式市場において、もし企業が不都合な情報を隠していたら投資家は適切な判断ができません。有価証券報告書などの開示が定められているのは、市場全体を健全に保ち、資本を効率的に配分するためなのです。

なかでも私が長年取り組んでいるのが、「リスク情報開示」に関する研究です。リスク情報とは「地震が起きたら」「為替が変動したら」「社長が辞任したら」など、将来の業績に重大な影響を与えうる内容のこと。私は、このリスク情報開示が「企業のマネジメント体制」や「市場からの信頼度」にどのような影響をもたらすか等を検証しています。企業が(半ば仕方なく)開示するリスク情報が、実は市場のみならず企業にとっても有益なのでは、と考えているのです。こんな風に、実務の積み重ねをアカデミックな視座で検証することが、我々会計学者の役割の一つだと思っています。

互いの「当たり前」が
通用しないから
他流試合は面白い

「他流試合」に出ることが
アカデミズムを豊かにする

──  岡本学長が20年以上前に立ち上げた「世界システム研究会」には、金先生も熱心に参加されているそうですね。

岡本 私が東経大へ移ってきた1997年に、「専門分野や学派を超えた研究会を作ろう」と同僚と一緒に立ち上げたのが「世界システム研究会」です。少々変わった名前の由来は、広いスケールで物事を考えよう、様々な制度・システムがどう機能し、どう行き詰まっているかを明らかにしよう、という思いからです。

参加者は、本学の教員はもちろん、元教員、職員、シニア大学院生、地域の方、学部生と様々。多いときは50人ほどになります。年3回のペースで続けてきて、これまでの通算回数は60回以上。この研究会の存在は、本学の自慢の一つです。

 私が「世界システム研究会」に本格的に参加するようになったのは、2014年頃。2年間のアメリカ留学から帰国し、日頃からもっと「広い視野」を持っていないと、よい研究はできないなと感じていた時でした。以来、ほぼ毎回参加しています。

研究会で報告されるテーマは、経済学や経営学、法学はもちろん、生物学や宇宙物理学、政治哲学、思想史と多彩。そんな考え方があるのか!と感心したり、時には最初から最後まで全く理解できなかったり……(笑)。でもその体験が楽しいし、有意義だと感じています。

岡本 金先生の言う「広い視野」というのは、非常に大事なところですね。現代社会をトータルに把握し、批判的に見つめ、次の時代を展望する。私はそれこそがアカデミズムの使命であり、大学という場に求められている役割だと考えているんです。

そして広い視野を持つためには、「他流試合」「異文化交流」が必要です。専門外の他者の声を聞くこと、そして、専門外の他者に向けて語りかけること。それが研究者をより鍛えるし、アカデミズムを一層豊かにしてくれるのです。

 異分野同士って、互いの「当たり前」が通用しないからいいんですよね。最近、経営学の先生と新たな研究プロジェクトを立ち上げたんですが、会計学とはまた視点が違うので、プリミティブな議論になる。新鮮だし、面白いです。

それと余談ですが、私、最近、サイエンス系の雑誌の定期購読を始めたんです。ガンの研究とか細胞の何とかとか難しいページは飛ばしますけど(笑)、例えばこの前見た「認知科学」の話は興味深かったです。企業行動にも応用できるかもしれないし、私が採用している実証アプローチに対する警鐘もあったりして。最先端の学問の一端に触れられるのは貴重だし、回り回っていつか自分の研究にも役立てばいいなと思っています。

東京経済大学なら
「生涯の師」に
きっと出会える

悩みながら研究に挑む
「熱」を感じてほしい

──  2020年、東経大はいよいよ120周年を迎えます。今後も大切にしたい東経大の魅力とは?

 東経大は研究環境としてすごく恵まれている場だと思います。外部の変化に左右されず、これからもずっと、「学生」だけでなく「研究者」も育てる大学であり続けてほしいと心から願っています! 「研究」の質は当然、「教育」の質となって学生に還元されますから。

私は、指導している会計学のゼミで、学生の報告後に自分の研究内容を発表するようにしているんです。学部生にとっては難解なはずですが、皆しっかり聞いて質問もしてくれます。そういう学生の姿勢はうれしいし、研究者の「熱」みたいなものを感じ取ってもらえたらと思っているんです。先生も悩みながら一生懸命研究しているんだな、って。

岡本 いやあ、感心しました。学生を指導するだけでなく、教員自ら報告するというのは素晴らしいですね。私は日頃から先生方に「多少忙しくても、論文を書いたり、学会や研究会でどんどん発表したりしてください」と言うんです。イチ研究者として、常に外からの評価にさらされるというのは、とても大事なことだと思います。

それから、学生と教員のあたたかい人間関係は、東経大に息づく伝統であり、この先もずっと守りたいですね。「本学で『生涯の師』を見つけてください」と入学式で新入生に語りかける言葉通り、ここが学生と教員の魂の出会いの場であり続けてほしいと思っています。

──  東経大の目指す学びのあり方を「考え抜く実学。」と打ち出していますね。

岡本 実学というと、幕末の思想家・横井小楠が浮かびます。彼は熊本藩のエリートでしたが、従来の教育を良しとせず「現実の社会に役立つ学問を」「現状を改革するのが実学だ」と主張し、実学党を結成。当時は異端児扱いされましたが、この実学党からはのちの世に影響を与えた人物が多数輩出しています。

「考え抜く実学。」に込めた思いも、まさに横井小楠の主張に通ずるところがあります。本学の4学部は、いずれも社会科学の中心をなす分野であり、時代が要請する様々な課題に応えることが期待されています。深い教養を礎とし、現実社会の問題を主体的に考え抜く。そういう大学でありたいと思っています。

 昨年の卒業式で、学長が「社会貢献できる人になってください」とお話しされましたよね。あれ以来、大学教員であり研究者である我々にとっての社会貢献って何だろうと、時折考えるんです。

岡本 単にモノを「教える」だけなら、我々よりも予備校の先生の方が上手かもしれない(笑)。でも、そうじゃないんです。我々は、経済界とも政界とも異なる「学問の世界」の住人です。50年、60年といったスパンで物事を考え、国内外の文化・文明、抱える諸課題と解決への道筋を次世代へ継承していく。学びたいという若者の意欲に、真摯に応える。そういう責務を果たすことが、我々の社会貢献ではないでしょうか。

 研究者、教育者としての役割を日々果たしていかなければと、思いを新たにしました。今日はありがとうございました。

岡本 あらゆるものには世代交代が必要です。金先生のような若い先生方の熱意を大変頼もしく思っています。これからもよろしくお願いします。

そして、これから大学へ進学する皆さんは、こんな風に真摯に学問と向き合う本学へ、安心して飛び込んできてほしいと思います。東京経済大学の学びは必ずや、先行きの見えないこれからの時代を生き抜く力となるはずです。教職員一同、皆さんの挑戦をお待ちしています。

Okamoto Hideo

岡本 英男

東京経済大学学長。経済学部教授。専門は財政学。著書に『福祉国家の可能性』『ソブリン危機と福祉国家財政』ほか。日本財政学会編集委員長(2016〜19年)

KIM Hyonok

金 鉉玉

経営学部教授。専門は会計学、ディスクロージャー。日経メディアマーケティング(株)NEEDS Financial QUEST専任講師。研究論文に「Accounting information quality and guaranteed loans : Evidence for Japan」『Small Business Economics』ほか