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データサイエンスって、理系の学問ですよね?

いいえ。

今日は、マーケティングや医療、教育、スポーツなど、あらゆる分野でビッグデータの利活用が求められる時代です。
データの背景を正しく理解し、適切に分析するためのデータサイエンスはいまや、文系・理系を問わず全ての学生に
不可欠な基本的なアカデミックスキルなのです。2020年、創立120周年を迎えた東京経済大学では、10年後を見据えた
新構想を策定中。その柱の一つとして、4学部を横断した「データサイエンス教育」を拡充していきます。

「データサイエンス」を
いま学ぶべき理由

── 創立120周年を機に策定している「10年後を見据えた新構想」では、「データサイエンス教育」がキーワードになっているそうですね。

竹内 東経大の中長期的な将来構想について、「教育」「研究」「国際化」「地域連携・社会貢献」と区分し、そのあり方を検討している最中です。なかでも具体的に整備を進めつつあるのが「データサイエンス教育」です。

データサイエンスというと、プログラミングとか、統計処理とか、データを分かりやすく加工するといったことを思い浮かべる人が多いかもしれません。でもそれは、データサイエンスのごく一部に過ぎません。処理したデータから、どんな知見を得るか。そしてどんな行動を起こすか──。その方法論を学び、考えるのがデータサイエンス教育の目的です。いまどんな学部でも「英語」を学ぶように、文理問わず「データサイエンス」を学ぶ。それが、今日のAI(人工知能)時代の常識となりつつあるのです。

 なるほど。とはいえ、文系の学生はハードルが高いと感じるかもしれませんね。私も学生時代は、統計学で随分苦労した思い出があります(笑)。4学部を横断する東経大のデータサイエンス教育は、どのように進めていくのでしょう。

竹内 まず、データサイエンスが様々な事象にどう関与するかという“ストーリー”を理解してもらうところから始めます。こういうデータを、こんな風に分析して、こんな結論を導き出した、という事例です。例えば、新商品の開発にあたって競合商品の購買層を分析しプロモーション戦略を立てた、とか、サッカーチームで相手の攻撃パターンを分析しディフェンスの作戦を立てた、とか。

少し変わった例では、文章を分析するテキストマイニングという手法もあります。例えば、夏目漱石の作品を分析して、単語の頻度や言い回しの傾向から執筆時期を明らかにしたり、文体の違いから作者が違うのではと推測したり、といったことも行われています。

そういった“ストーリー”を大まかに理解したら、次にデータの収集や加工、分析などの基本的なスキルを学びます。その後は個々の興味に応じて、専門科目──マーケティング戦略、プログラミングなど──と行き来しながら、理解を深めていきます。

── 社会科学系の人材の多くは、データサイエンスの専門家になるわけではありませんよね。どういった心構えでデータサイエンスを学ぶべきですか。

竹内 例えば、企業や組織で「どこに投資すべきか」「どこに人材投入すべきか」などを判断する際、データの存在は意思決定の支えとなるでしょう。ただし、適切な判断のためには、そのデータが適切に分析されたものなのか──AIのアルゴリズムは妥当なのか、検証するデータは過去何年分がいいのか等──という視点も持ち合わせているべきです。データに“踊らされる”のではなく、データを“使いこなす”ために、データサイエンスを学んでほしいですね。

 データサイエンスのスキルと同時に、自分なりの「ものの見方」「問題意識」を持つことも大切ではないでしょうか。どこに課題があるのか、どういう社会にすべきか、といった問いを立てる方法や答えは、どんなデータも教えてくれませんから。幅広い教養を身につけたり、多様な経験をしたりすることは、こういった意味でも重要だと思います。

竹内 本当にその通りですね。データというのは、どういう切り口で見るかによって価値が変わります。その切り口を決めるのは、まさに「教養」の部分です。アカデミズムと専門、そしてデータサイエンスの学びがうまく連動することが大事ですね。

データサイエンスに
「教養」の土台は
欠かせない

「ゼミ」も「講義」も
もっと変わらねば

── 今後、ゼミ教育のさらなる拡充にも取り組むそうですね。

 「ゼミする東経大」と謳っている通り、東経大の各学部ではゼミ活動に非常に力を入れています。経営学部を例にすると、企業とコラボレーションして「ビッグデータ分析」によるプロモーション計画を立案・提案しているゼミや、企業や大学との折衝から学生が準備し「海外研修」を実施しているゼミもあります。また私のゼミでは「広告プランニング」に取り組んでおり、市場分析に基づく課題の設定から表現と媒体計画の練り上げまでの一連の流れを実習を通して学んでいます。

竹内 ゼミ活動は、本当に学生を変えますよね。学ぶこと・考えることに非常に意欲的になるし、自分の意見を発信することや、異なる意見を受け入れることもできるようになっていく。人とコミュニケーションをとったり、組織の中で自分の役割を見つけて動いたりする訓練にもなります。多くの学生が、見違えるほど自信をつけて卒業していきますね。

今後は、ゼミの履修率をさらに高めることを目指します。興味の対象や打ち込むきっかけを見つけられない学生にはサポートが必要ですし、定員の都合で第一志望のゼミに入れなかった学生には他の選択肢の魅力も提示しなければ……。東経大に集う全ての学生に、能動的な学びの場を提供したいと思っています。

── 岸先生は、ゼミだけでなく「講義」についても思うところがあるとか。

 ゼミの重要性は言うまでもないですが、それ以外でも「能動的に学ぶ場」を作り出すことは可能だと思っています。かつて私が米・イリノイ大学で受けたのは、まさにそういう教育でした。まず、学部の講義でも「発言点」が成績の15%を占めるので、黙っていたら良い評価はもらえません。授業の前にはあらかじめ論文や教科書の精読が必要でしたし、ディスカッションやグループワークのための準備もありました。「明日はこれを言おう!」などと前夜は遅くまで必死になって予習したものです。

振り返ってみると、あれほど必死に学問に打ち込める環境があったことはとても恵まれていたなと思います。考える力というのは、主体的に学ぶことで初めて身につくものなのだということも実感しました。

竹内 そういった授業をするためには、我々教員がまず意識を変える必要がありますね。最近私が気になっているのは、授業を黙って聞いていれば「すぐ役立つこと」「資格取得につながること」を教えてもらえると誤解している層が学生の一部にいることです。どんな学問も、地道な基礎学習、アカデミズムの積み重ねがなくては深められないということを分かってもらいたいですね。

 そうですね。これまでのやり方を変えるというのは、学生にも教員にも負担が大きいですが、5年後には新学習指導要領で学んだ学生さんも入学してきます。いま大学が率先して変わらなければいけないと思っています。

能動的に学ぶ
力と意欲は
生涯の財産になる

「責任」ある行動から
「信用」が生まれる

── その他に、今後どのような取り組みに注力していきますか。

竹内 先に挙げた「データサイエンス教育」「ゼミ改革」に加えて、「多文化共生教育」や「大学院の教学改革」にも着手する予定です。

多様な文化や思想、価値観を理解し、共に生きる「多文化共生」の考え方は、特に若い世代にはぜひ関心を持ってほしいところです。最近は海外どころか首都圏から出たくないという若者もいると聞きますが(笑)、ゼミの海外研修や短期留学などの経験が、壁を壊す一つのきっかけになればと思っています。

岸先生がイリノイ大学にいらした頃は、まだ日本人の留学生も少なかったと思いますが、いかがでしたか。

 たしか、私が所属していた大学院で博士の学位を取った2人目の日本人でした。アメリカの人たちは珍しい東洋人をごく自然に仲間として受け入れてくれたし、拙い英語にもじっと耳を傾けて私を理解しようとしてくれました。当時と今では環境は随分違いますが、留学生と日本人がキャンパス内で分断されることなく共に学ぶ「国際共修」は東経大でももっと進めたいと考えています。

今後は、英語力の向上に加え、バックグラウンドの違う人と共に働いたり交渉したりする際のコミュニケーションのスキルを高めることも大事だと思っています。多様な文化が並存する場で、日本独自の阿吽の呼吸など通用しません。日本語であれ英語であれ、論理立ててきっちりと人に説明する力をつけてほしいですね。

── 先行きの見えない時代を生きる若い世代へ、エールをお願いします。

 皆さんも感じていると思いますが、いまは過去の延長ではない非常に不確実な時代です。大学で学んだことも近い将来、陳腐化するかもしれない。それでも、新たに学び直す能力と意欲、そしてアカデミズムの土台があれば、たくましく生き抜いていけるはずです。それを大学で身につけてほしいと思っています。

竹内 私は「殻を破ってごらん」と伝えたいですね。これまでは学校の先生や親に言われた通りにやることが正解だったかもしれませんが、大学では違います。「言われた通りに書きました」「例題の通りに解きました」では物足りないでしょう? 殻を破って、もっと自由に主体的に物事に取り組んでほしい。そのために、東経大という環境をうまく使って、チャレンジする4年間にしてほしいと思います。

そして10年後でも20年後でもいいので、建学の理念である「進一層」の精神で、社会の課題解決のために貢献してもらえたらうれしいですね。

 建学の理念には「進一層」とともに「責任と信用」という言葉もあります。一見ありふれた言葉ですが、これも時代を超えて受け継ぐべき大事なことだと思います。どんな社会でも、「あの人なら間違いない、きちんとやってくれるはず」という“信用”を集める人というのは、目立たないことも労を惜しまず“責任”を持って取り組む人です。東経大で学んだ皆さんには、そんな「責任と信用」を大切に、それぞれの場所でリーダーシップを発揮してほしいと願っています。

Takeuchi Hidekazu

竹内 秀一

東京経済大学副学長(教学・入試担当)。キャリアデザインプログラム運営委員長も務める。専門は数理統計学。新構想具現化検討委員会委員長。

Kishi Shizue

岸 志津江

東京経済大学副学長(学生支援等担当)。経営学部長を経て現職。専門は広告、マーケティング・コミュニケーション、消費者行動。新構想具現化検討委員会委員。