東京経済大学創立120周年記念事業の1つとして進められている共同研究「地域と環境の再生と発展―多摩・東京・世界―」のプロジェクト「21世紀の多摩学」の第3回研究会が、2018年10月3日(水)、国分寺駅ビル内のcocobunjiプラザ(セミナールーム)で開催されました。
第3回研究会は「多摩地域の都市農業~「強い農業」の可能性」というテーマを設定しました。どうして「強い農業」という用語を使用したかを説明しますと、2つの理由があります。1つは従来の「都市農業」研究は「いかに都市農業を守るか」というどちらかといえば消極的な捉え方が主流ですが、農業そのものが多面的な機能を持つことから、都市農業を積極的に捉えていこうというのが我々のねらいです。
そして、担い手があっての農業なので、担い手のあり方も念頭に置く必要があります。市民農園のようなものも担い手としてあり得ますが、多摩地域の都市農業を考える際に、我々としては農家、農業生産法人、株式会社などの営利組織を担い手として取り上げます。多摩地域の都市農業は、立地条件が全国的にも特殊で、近くに東京、横浜といった巨大なマーケットが存在するため、「儲かる農業経営」が十分に可能です。少量生産であっても高付加価値のものを生産すれば、その他の産業に匹敵する収入を得られるでしょう。これが2つ目の理由です。
営利組織を長期的な担い手として考える際に、2点が重要です。1つは収益の問題(ハード的な側面)であり、いかに高価(高付加価値)な商品を生産するかが課題になります。もう1つは、ソフト的な側面で、いかにやりがいを維持していくかという問題です。日本の大多数の農家はプロ意識で米なり野菜なりを生産していますが、農協などを通して出荷する場合、自分のプロ意識で作った農産物が消費者にどう評価されているのかがわからないのが現状です。消費者の評価が生産者に伝われば、やりがいにもつながります。消費者の評価が生産者に伝わるような仕組みが重要です。こうした問題意識の下で、今回は3名の現場の専門家を登壇者としてお招きしました。
1人目の小谷俊哉氏(一般財団法人都市農地活用支援センター主任研究員)は、長年都市農地にかかわる様々な企画、立案、実践に従事してきた方で、東京の都市農業の現状および都市農地をめぐる最近の動向を解説してくださいました。都市緑地法・生産緑地法等の改正、東京都の農業振興プランにかかわる議論は覚えておきたい内容でした。
2人目は、磯沼正徳氏(磯沼ミルクファーム代表)でして、「牛と人の幸せな牧場」を目指して八王子でチャレンジを続けている方です。牧場の活動内容を中心に報告してくださいました。牛舎のベッドにコーヒー豆の粕を撒いていることや酪農体験を行うことで注目されていますが、それだけでなく、「かあさん牛」の名前入りのヨーグルトを牧場内の工房で製造しており、八王子駅ビル内に出店し、アイスクリームも製造・販売しています。まさに高付加価値の商品を生産している6次産業です。こうした経営形態の場合、消費者の反応も知ることができ、やりがいにもつながることでしょう。
3人目の菱沼勇介氏(株式会社エマリコくにたち代表取締役)は、地場野菜の流通に革命を起こしたと評価される方で、巧みな話術で、逗子に生まれ農業とまったく関わりのなかった自身が農業にかかわるようになった経緯や、現在展開している新しい農産品流通地産地消の難しさを紹介してくださいました。多摩地域の「朝どれ」地野菜を、JR中央線国立駅近くの直売所で販売しており、その野菜を使用した飲食事業も展開しています。毎日スタッフが集荷のため農家を回っており、その際消費者の反応を農家に伝えます。菱沼さんの活動は農業そのものではないものの、生産農家のハードの側面とソフトの側面に与える役割は大きいと思われます。
以上のように、3名の専門家の興味深い報告を通じて、都市農業のおかれている状況を理解したうえで、最先端的な2つの事例を通して「強い農業」の現状と課題について考えることができました。会場の参加者との質疑応答も盛り上がり、時間が足りないくらいでした。
第4回研究会は、「多摩地域の人口構造の変化と住宅事情」をテーマに12月5日(水)18時から、同会場で行われます。多くの皆様のご参集をお待ちしております。
(記録・東京経済大学・経済学部 李海訓)