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【学生のみなさん】 今こそ名著・古典を読もう  現代法学部長 藤原修

 

本年度も昨年度に引き続き、大部分の授業がオンラインとなり、特に2年次生の皆さんは、入学以来1年以上にわたって正常なキャンパスライフを送ることができず、私どもとしても心苦しい限りです。そして、東京はとうとう感染爆発を起こしてしまいました。巣ごもり生活は、特に若い人には、本当に苦しいものと思います。

しかし、ここは前向きに危機を機会に変えて、むしろ巣ごもりこそ、名著・古典に親しむ大いなるチャンスです。大学生にとり、名著・古典に時間をかけて取り組むことはとても大事なことです。夏休みには、お出かけの代わりに、是非、名著・古典に親しんでください。私から、3点お勧めを挙げておきます。

1 碧海純一『法と社会―新しい法学入門』中公新書

碧海(あおみ)純一氏は、かつて東大法学部の法哲学教授であった人で、本書は、1967年の刊行からすでに半世紀以上たっていますが、いまだロングセラーを続けて、類のないユニークな法学入門書として読み継がれており、法学の分野で「名著」と呼ぶにふさわしい本です。
通常の法学入門書とは大きく異なり、本書は、法の在り方を、社会人類学や文化史的視点など、人類社会の幅広い経験のなかに位置づけつつ、法学の歴史や学派を解説したものです。高度な知的教養の本でありながら、大家の筆らしい、初学者でも十分理解可能な明快でわかりやすい文章で書かれており、現代法学部生の皆さんに是非読んでほしい本です。

2 ハンス・ケルゼン著(長尾龍一・植田俊太郎訳)『民主主義の本質と価値』岩波文庫

ハンス・ケルゼンは「純粋法学」の名で知られる、20世紀前半期に活躍したオーストリアの重要な法学者で、本書は、ファシズムと共産主義という左右の独裁の台頭する戦間期(第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期)に書かれた、そもそも民主主義とはどういうものかという民主主義の原理的な考察を踏まえて、その擁護を行っている、憲法学・政治学分野の現代の古典ともいうべき本です。
現代世界においてもまた、民主主義の危機が深まっています。バイデン米大統領は、主に中国を念頭に、現代世界にける民主主義と専制主義の対立・競争を、その対外政策の基本目標として掲げました。しかし、そのアメリカ自体、トランプ前大統領の言動やその支持者らの動きに見られるような立憲主義、民主主義の危機のさなかにあります、ポピュリズムや排外主義のはびこるヨーロッパ、憲法を軽視し、説明責任を果たさない政権の続く日本など、先進民主主義国家と目されてきた国自体もまた、民主主義の危機を迎えています。このような時、ケルゼンの現代民主主義の古典的考察の書は、改めて民主主義の価値と条件を認識するのに役立ちます。
本書は、分量は多くありませんが、内容はかなり難解です。おそらく半分くらいは理解できないでしょう。しかし、そこで挫折しないで、辛抱強く読み進めてください。丁寧に、時間をかけて読めば、残り半分くらいは分かります。古典は難解なものが多く、読み通すのは大変ですが、しかし、各古典の半分くらいは十分理解できるものです。その読解可能な部分を逃さずに読み取るのが古典を読むコツです。難解で理解不能なところに目を奪われないで、理解できることころを丁寧に読み取るようにします。そうすれば半分くらいは読めます。半分読めれば、その本の主要な論点、著者の基本的なメッセージは伝わります。そして、頑張って本書を最後まで読み通せば、結論部に出てくる著者の感動的なメッセージに出会うことになるでしょう。

3 ワールポラ・ラーフラ著(今枝由郎訳)『ブッダが説いたこと』岩波文庫

本書は、法は法でも仏法、仏教哲学の書です。仏教はその最初の教えである釈迦=ブッダの言行を記したものから、数百年の間に、多様な経典が書かれ、大乗仏教や上座部仏教など、複数の宗派にも分かれ、ブッダのオリジナルな教えからいろいろと尾ひれのついたものになって今日に及んでいます。
本書は、スリランカ出身の仏教学者によって書かれ1959年に刊行された非常に短い本で、ブッダのオリジナルな教えの基本部分を平易な言葉で解説したものとして、英語で書かれた最良の仏教概説書と目されているものです。
日本で通俗的に流布している「仏教」的なものと、オリジナルな仏教哲学の余りの違いに驚かれるでしょう。仏教哲学の基本をコンパクトに知ることのできる大変便利な本です。
さて、8月は日本では戦争を語り継ぐ季節です。仏教は世界最古の平和思想です。本書に、ブッダの次のような言葉が記されています。「じつはこの世においては/怨(うら)みが、怨みによって消えることは、ついにない。/怨みは、怨みを捨てることによってこそ消える。/これは普遍的真理である」
実は、この同じ言葉を、1951年にサンフランシスコで開かれた対日講和会議で、スリランカの代表が、戦争に関しての日本に対する損害賠償請求権を放棄する際に述べたのです。日本が周辺の国に仕掛けた戦争によって、中国をはじめ、アジアの多くの国は甚大な人的・物的被害を受けました。日本が敗戦・占領を経て、各国と平和条約を結んだとき、多くの国は日本を寛容に許し、日本は国際社会への復帰を遂げ、戦後の平和と発展を享受することができました。今ではすっかり忘れ去られていますが、日本国民として決して忘れてはならないことです。