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2025年度入学式 学長式辞全文

東京経済大学に入学された皆さん、おめでとうございます。いま外は冷たい雨が降っていますが、キャンパスの桜が満開となり、やがて眩い新緑の季節を迎えようとする、この希望あふれる41日に新入生の皆さんを迎え入れることは、私たち教職員にとって誠に大きな喜びです。本学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。

本日は、本学の新しいメンバーとなられた皆さんに、ぜひ知っておいていただきたいと考える本学の歴史と、入学後の心構えについて述べさせていただきます。

本学は、一代で財閥を築き上げた大倉喜八郎が1900年(明治33年)に赤坂葵町に創設した大倉商業学校を淵源としており、今年で創立125周年を迎えます。その歴史は、戦前の経済・商業系の専門学校から戦後大学に昇格した同種の大学と比べても群を抜いて長く、新入生の皆さんもこのことを大いに誇りに思ってください。

この大倉商業学校は20年後に大倉高等商業学校へと昇格を果たし、関東大震災で大きな打撃を受けたものの、多くの入学志願者と高い就職率を誇る私学高商の名門校として順調な発展を遂げてきました。

しかしこのような順調な発展は、戦争と敗戦によって一転します。本学は、戦時中に大倉経済専門学校へと名称の変更を余儀なくされ、敗戦間際の19455月に米軍の空襲によって校舎の大半を焼失します。その結果、大倉経済専門学校は翌年の6月に私たちが今立っている国分寺の大倉系企業の工場跡地に移転し、総勢わずか600名の教職員と学生でもって再出発を図ります。

その頃の本学の様子を『東京経済大学80年史』は「さながら大海の真っただ中で荒波にもまれる小舟のようだった」と表現しています。というのは、創立以来基金として保有されてきた公社債は敗戦とその後のインフレによってほとんど無価値となり、もはや基金としての用をなさなくなり、しかも財閥解体の影響で創立者大倉家の支援を期待できなくなったからです。

しかし、このような困難の中、本学は自立再建の道を選びます。この時期、大学への昇格が教職員と学生、そして卒業生の一致した目標でした。大学昇格に向けての全学の一致協力ぶりを象徴的に示したのは、学生による寄付金活動でした。19486月の学生大会は、全学生が夏季休暇中にアルバイトや募金活動によって一人当たり三千円をつくりだし大学昇格のための資金として寄付することを決議します。教授会は学生がアルバイトなどを行えるよう夏季休暇の3ヶ月間延長を承認し、さらに募金活動への協力によって学生の熱意に応え、このようにして当時としては高額の目標が達成されました。

学生、教職員、卒業生のこのような懸命の努力が実を結び、19494月に本学は新制の東京経済大学として新しいスタートを切ります。イギリスでは、困難に陥ったとき、あきらめずに立ち向かう不屈の精神のことを「ダンケルク精神」と呼びます。私は、7年前の学長就任後はじめての入学式の学長式辞のなかで、敗戦後の国分寺キャンパスへの移転、その後の学生、教職員、卒業生の学園の再建と大学への昇格に向けた一致団結ぶりを「東経大のダンケルク精神」と名づけました。

どうか、新入生の皆さんも、長い伝統を誇る本学の歴史には大変厳しい時代があったこと、そしてその困難な時代を先輩たちの愛校心溢れる行動とスピリットで乗り切ったことを胸に刻み込んでいてください。

東京経済大学として新たなスタートを切った本学は、他のどの大学よりも「大学らしい大学」となることを目標に今日までやってきました。「大学らしい大学」の内容を一言で述べると、自由な学問研究を支えとして質の高い教育を行うことであり、この理念を透明性の高い大学の民主的運営によって支えることです。この目標を実際のものとするには、私たち教員は研究者としての研鑽を積みながら真剣に教育にあたらなければなりません。同時に、学生の皆さんの大学と授業に対する心構えはそれ以上に重要になります。

皆さんには、自分たちこそがキャンパスの主人公であり、東京経済大学の新しいページを切り開くのだという気概をもって大学生活に臨んでいただきたい。私は皆さんが教育サービスを享受する立場にいることを否定しませんが、皆さん自身の知的営為と主体的努力こそが大学教育の質を高め、ひいては「大学らしい大学」の内実を作り上げていくのです。このことをしっかりと心に刻んでいてください。そして、このようにマインドを切り換えた上で、今からの4年間、自分の目指すべき方向について各自じっくりと考えていただきたい。

皆さんが自分の将来について考える上でも、そして大学での学びを深める上でも、教師や友人との交流が今まで以上に重要になってきます。私は、大学における人間的接触を促進する上で鍵となるのはゼミナール制度だと思っています。

本学では、1年生全員が受講することになっている入門ゼミを除いて、現在約140のゼミが活動中です。皆さんは、これら数多くのゼミの中から、自分が一番学びたいテーマは何か、大学時代にぜひ身につけておきたい力は何か、またどの先生のもとで学びたいか、といった皆さん自身の目的や観点に立って、自由に選ぶことができます。

私は、ゼミこそ「教員と学生の語らいと切磋琢磨の場であり、学生が知的・人間的に成長する場である」と考えています。皆さんは、ゼミのなかで厳しい訓練を受けることによって、自発的に、そして能動的に学ぶ力を身につけていきます。しかし、ゼミはただ厳しいだけのものではありません。教師との個人的な接触・交流を通じて、そしてゼミ生同士の対話を通じて、生涯自分の心の糧となる何かを学んでいく場でもあるのです。新入生の皆さんも、1年後に自分はどのゼミに入って何を学びたいかをぜひ考えておいてください。

もう一つ、人間的接触を通じて、皆さんの成長を確実に促進するものとして課外活動があります。皆さんの行動力、協調性と柔軟性、忍耐力と責任感を養う上で課外活動はたいへん有効です。私は皆さんに心身を鍛える体育会系クラブや仲間と一緒になって興味ある分野に打ち込める文化系サークルに積極的に参加されることを勧めます。

ところで皆さん、私は何度も皆さんの成長にとって人間的接触が重要であると述べてきましたが、人間的ふれあいの中心にあるものは何だと思われますか。また、大学においてはなぜ人間的ふれあいが大事なのでしょうか。

私は、そのふれあいの中心にあるのは、相手を理解しようとする心の底からの対話であると考えています。現代社会において、このような対話が決定的に不足しており、そのことが戦争や相互不信による激しい政治的対立をはじめとした、様々な軋轢と問題を生んでいます。

私は、大学は対話を通じて前向きに社会対立を緩和する母体になるべきだと考えています。本学が社会科学系総合大学を標榜する意義もそこにあると私は思っています。

皆さんは、自由闊達な精神を何よりも重視してきた本学において、ゼミをはじめとした授業のなかで筋の通った徹底的な対話を行う経験を積んでいってください。また、部活やサークルの先輩や友人たちとの間で、相互に敬意を払いながら心のふれあいのある対話を重ねていってください。そのような対話の繰り返しのなかで、皆さんは、しっかりとした自分の意見を持つ人格へと、そして自分の意見を持つがゆえに相手の意見も尊重する、〈ふっくらとした人格〉へと成長していくことができます。そして、皆さんをそのような存在へと成長させることは大学の使命であり、今日における「大学らしい大学」の在り方だ、と私は確信しています。

皆さんの前には大きな可能性が開かれています。私自身の経験から見ても、大学時代の4年間は人生において最も自由で、最も実り多き時期です。本学での4年間で、大いに学び、大いに交流し、「生涯の師」と仰ぐ人物を見つけ、互いの心が豊かになるような「一生付き合える友人」をつくってください。そして、125年の伝統を誇る本学の歴史をさらに一歩前進させる事業に私たち教職員と一緒に取り組んでいきましょう。

202541日  東京経済大学学長  岡本英男