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2021年度入学式 学長式辞

東京経済大学に入学された皆さん、おめでとうございます。本学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。

本学は昨年創立120周年を迎えた堂々たる伝統校です。そのことを皆さんは大いに誇りに思ってください。しかし、本学の今日までの歩みは決して順風満帆なものではありませんでした。とりわけ、敗戦直前の米軍の爆撃による赤坂校舎の焼失、財閥解体に伴う創立者大倉家による支援の喪失、1946年の敗戦の混乱のなかでの国分寺への移転、そして大学への昇格に至る4年間は本学の歴史のなかで最も苦しい時期でした。新入生の皆さんも、本学にはこのような苦しい時期があったこと、そしてこの苦難の時期を教師と学生、卒業生の一致団結した献身的努力によって乗り越えたことをぜひ覚えておいてください。

このような懸命の努力が実を結び、1949年4月、本学は新制の東京経済大学として新しいスタートを切ります。専任教員17名、職員23名、学生416名のまことに小さな所帯でしたが、そこには「清新の気」がみなぎっていました。もちろん、その後も本学は幾多の苦難に直面しますが、他のどの大学よりも「大学らしい大学」となることを目標にしてきました。「大学らしい大学」の内容を一言で述べると、自由な学問研究を支えとして質の高い教育を行うことであり、この理念を透明性の高い大学の民主的運営によってしっかりと支えることです。そして、その内容に関して、もう一つ忘れてはならないのは、本学が自由闊達な学風のなかで教師と学生の間の人間的触れ合いを一貫して重視してきたことです。

皆さんが大学に入り、大学の勉強を進めていくにつれて、実りある成果を収めるうえで、何よりも先生がたとの人間的接触、そして学生同士の触れ合いが大事であることを実感すると思います。

私たちは昨年度、コロナ禍というやむを得ない状況下で、オンラインでの学習の可能性を学びました。私自身週一回開催している学長ゼミも1年間ズームで行ってきました。私も参加している学生もズームでのゼミにだいぶ慣れ、今や画面越しに白熱した議論も展開できるようになりました。しかし、画面越しで見る顔と声だけでは何か重要なものが欠けていて、相互のやりとりがまだ局所的なものにとどまっているように感じるのも事実です。それは、肌の温もりから人柄、気配や息遣いといった身体全体からの反応が十分に伝わってこないからかもしれません。

コロナ禍はいつ終息するかわかりません。しかし、大学での勉強は人間的接触のなかで大いに進むのだということは理解し、心の準備をしておいてください。私は、人間的接触を促進するうえで鍵となるのはゼミナール制度だと考えています。

本学では、1年生全員が受講することになっている入門ゼミを除いて、現在約150のゼミが活動中です。皆さんは、これら数多くのゼミのなかから、自分が一番学びたいテーマは何か、また大学時代にぜひ身につけておきたい力は何か、といった皆さん自身の観点から自由に選ぶことができます。私は、ゼミこそ「教員と学生の語らいと切磋琢磨の場」であると考えています。皆さんはゼミのなかで厳しい訓練を受けることによって自発的に、そして能動的に学ぶ力を身につけていくことができます。しかし、ゼミはただ厳しいだけのものではありません。ひとりの尊敬する教師との個人的な接触・交流を通じて、そしてゼミ生同士の対話を通じて、生涯自分の心の糧となる何かを学んでいくのです。

もう一つ、大学における皆さんの人間的成長を大いに促進するものとして課外活動があります。

私は最近、今年で創部100周年を迎える英語研究会の100周年記念誌にお祝いのメッセージを書くために、英語研究会のOBの方に当時の活動の様子を伺ったことがあります。そのなかで、英語劇に深くコミットし、卒業後も英語劇に深く関わってこられた昭和53年卒の高田良太郎さんの次の言葉は印象的でした。

「英語劇は3ヶ月を越す長丁場であり、演出、キャストのみならず、大道具、音響、さらには資金集めなどの裏方が一緒になって一つの劇をつくり上げます。つくるために皆が力を合わせ一つのことに集中し、まさにゼロからつくっていきます。この経験は今なお私の人生の糧になっており、一人では決してできないのであり、仲間のいる学生時代にしかできない経験です。」

どうか皆さんも、この高田さんのように仲間と共に興味ある分野に打ち込める文化系サークルや心身を鍛え忍耐力と責任感を養う体育会系クラブに積極的に参加してください。そして、そのなかで、一生付き合えるような親友をつくっていってください。親友というのは、たんに遊びのうえだけの友だちではなく、心の触れ合いのある、互いに自分の心が豊かになる、そういう関係です。

私は昨年の卒業式の式辞のなかで、卒業生に向かって卒業後も「他者の立場や境遇に思いを至らせ配慮できる人間になってほしい」、「共同体に責任をもつ、共同体全体を考える政治的に成熟した市民を目指してほしい」と述べました。本日ここで皆さんに是非伝えたいことは、このような人間に成長するための第一歩は大学での学びであり、とりわけゼミや課外活動のなかでの教師との、そして学生同士の人間的交わりなのです。この「対話」を中心とした交わりのなかで初めて皆さんは、「他のあらゆる人の立場で思考しうる視野の広い思考様式」を身につけていくと同時に、「一人ひとりのしっかりとした意見をもつ人格」へと成長していけるのです。

もちろん「対話」を実りあるものにするうえで読書と新聞の閲読は欠かせません。本学の図書館にはあらゆる本と新聞がそろっています。皆さんにとって、まさに知識の宝庫です。図書館に親しみ、図書館を大いに利用して下さい。

新入生の皆さん、今日から皆さんは「自由の学府」東京経済大学の一員です。先輩たちの足跡と苦難の時代をたえず想起しながら、大いに学び、大いに交流を深め、長い伝統を誇る本学をさらに一歩前進させる事業に共に取り組んでまいりましょう。

2021年4月1日 東京経済大学学長 岡本英男