東経大教員QUIZ
日本人が生涯に引っ越しをする回数は、平均3回と言われています。私は少々変わった家族の影響で、なんと20回もの引っ越しを経験しました。
以前はそのことを「根なし草」のような、ややネガティブな事と捉えていました。
しかし、大学卒業後、会社勤めを経て、夫の仕事の都合でフィンランドに住んでいた頃のこと。ジョン・アーリという社会学者の本に偶然出会いました。
アーリは、移動を「距離の隔たりに対処する」ための多様な方法として捉え、それには身体の移動だけでなく、物の移動、想像による移動、メッセージやイメージの移動など、多種多様な移動があること、そして、人はそれを組み合わせて生活しているのだと述べていました。
アーリの考えに触れ、これを研究したら面白そうだ、移動の概念を捉え直すってなんだか可能性がありそうだ、と私は大学院に入ることを決めたのです。以後、「移動の社会学」などを専門に研究を続け、現在に至ります。
「移動にはどのような効用と歓び、さらには痛みがあるのだろうか」。アーリは2016年に亡くなりましたが、コロナ禍で移動のあり方が変わりつつあるいま、彼が遺したこの問いをあらためて見つめ直してみたいと感じています。