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Q: あの大ヒット漫画、
主人公の
“長男らしい”言動が
目立つのはなぜでしょう?

現代法学部
古賀絢子専任講師

東経大教員QUIZ

 
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A:『鬼滅の刃』の時代の家族法は
今と異なる「家」制度の下、長男が戸主として
特別の権利と責任を持っていたのです。

私の専門は家族法です。法が家族の関係を規律していることは、日々の生活の中では実感しにくいでしょう。でも、夫婦は同じ氏を名乗る、父母は子育ての責任を共に負うといった、家族にまつわる「当たり前」は、実は法が定めたルールです。家族は知らずと、法と、法を基礎とする社会の仕組みの下で形作られています。

一方で、家族の姿は時に、法も予想しない変化を遂げます。例えば、LGBTQ(性的少数者)の顕在化は同性カップルの法への包摂を求め、生殖補助医療の進展は親子関係成立の枠組みを揺るがしています。しかし、法を改める作業は難航しがちです。家族の在り方をめぐって、人は様々に譲れない想いや価値観を抱き、激しく対立してしまうのです。

それも、家族がかけ替えのない存在だからこそ。でも、現実には上手く行かない家族は多いものです。それゆえ、家族愛を真摯に紡ぐ物語は、私達を惹きつけてやみません。最近では、大人気漫画『鬼滅の刃』。大正時代を舞台に、妹を救うために奮闘する少年のお話です。実は大正時代の家族法は、今とは異なる「家」制度を基礎とするものでした。「家」の長男が戸主として特別扱いされ、家の氏や財産を受け継ぎ、他の家族員を養う責任も担います。本作でも、主人公の少年が抱く長男としての責任感の強さとともに、先祖代々、ある大切なものを受け継いでいることなどに、「家」制度の色彩が垣間見られます。

戦後直後に「家」制度が廃止されたのは、戸主の支配的地位や男女の不平等性が理由でした。そんな「家」制度のかび臭い家族観を、本作は背景として携えつつも、むしろ一蹴していると感じます。少年の小さき者に寄り添う温かさや、多様な生き方を全うする登場人物達、殊に女性達の華麗な力強さは、「個人の尊重と両性の平等」という現代家族法の理念を「当たり前」としてきた私達の共感と支持を呼ぶものになっています。

家族をめぐる新しい「当たり前」を築いていくのは、若い皆さん達です。大学で、その助けとなる学びを一緒に重ねていきたいと望んでいます。