はじめに
東京経済大学は、本学SDGs行動憲章の中で「本学は、誰もが公正に包摂される社会、多様性が尊重される社会を重視し、それを規範としてあらゆる大学運営を進めていきます。」と定めています。その具現化の一つとして、ここに性的指向と性自認(以下「SOGI」という)の多様性に関する基本方針及びガイドラインを定めます。
SOGI(ソジ)とは、性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとった略称です。LGBTQが性的マイノリティを指すのに対し、SOGIはすべての人の性のあり方を包括的に捉えるための概念であって、国際社会で広く用いられています。性的指向、性自認といった性のあり方は多様であり、これらを理由とする差別や偏見を解消して、互いに人格を認め、尊重しあう社会を実現することは、将来の人材を育成する大学にとって重要な課題です。
本基本方針及びガイドラインは、すべての学生や教職員が安心して学び、働き、相談できる環境を整えるための基本的な考え方を示し、具体的な指針を提供するものです。本学の全構成員がSOGIの多様性への理解を深め、日々の行動に反映させることができるよう、以下の方針を実施していきます。
Ⅰ SOGIの多様性に関する基本方針
本学は、SOGIの多様性を尊重し、学生の入学・在籍の保障と就学・卒業・進路選択にかかる配慮や支援、教職員の教育・研究・就業における配慮や支援に取り組むため、以下の5つの基本方針を定めます。
- LGBTQをはじめとした性的マイノリティや、個人の多様な性のあり方を認め、これを尊重すること。
- SOGIを理由とする差別や不当な扱いをなくし、誰もが安心して本学で過ごせるよう、学ぶ権利と働く権利を守ること。
- SOGIの多様性についての理解を深め、差別と偏見を解消するための意識啓発に取り組むこと。 相談や支援の担当者が適切な理解に基づいて業務に携われるよう、理解促進の機会を設けること。
- 性的マイノリティを含むすべての人が豊かな人間関係を育み、必要な配慮や支援に対する声を上げやすい環境を整備すること。そのために関係者が協力・連携しながら対応すること。
- プライバシーの保護につとめ、差別的言動やアウティング等の人権侵害・ハラスメントの防止につとめること。
Ⅱ SOGIの多様性に関するガイドライン
本学は、SOGIの多様性を尊重し、学生の誰もが安心して学生生活を過ごせるように、また、教職員の誰もが安心して働けるように、SOGIの多様性に関するガイドラインを定めます。なお、このガイドラインはあくまでも行動指針を示したものですので、「違反」や「罰則」を想定した規則ではありません。ただし、SOGIに関する不適切な言動が繰り返されるなど、悪質なハラスメント行為、人権侵害行為に該当する場合には、本学の学生懲戒規程やハラスメント関連規程に則った措置が取られることもあります。また、このガイドラインはSOGIに対する基本姿勢を堅持した上で、時局に応じた改訂・見直しを要するものと考えています。
1.学内での人間関係、配慮、対応の基本
- その場に性的マイノリティの人々がいることを前提とした態度・接し方を心掛ける
性的マイノリティの人々は、常にどこにでも一定の割合で存在しています。「まさかこの場にはいないと思いますが」、「最近増えましたが」などの発言は控えましょう。また、「異性愛」を当然とした発言や、「性別は男性と女性の2つしかない」という考えを押し付けないことも大切です。このような言動は、性的マイノリティの人々を傷つけるだけでなく、セクシャル・ハラスメントとして問題になる可能性があります。
- 見た目や氏名でジェンダー・セクシュアリティを決めつけない
トランスジェンダーの人々の多くは、自身の性別に違和感を持つことも多く、性自認に合った名前や服装、髪型で生活することを望んでいます。ですので、大学に登録された性別や見た目で判断せず、呼び分けを行わない(すべての相手を「さん」づけで呼ぶなど)ことが望ましいと言えます。また、性的マイノリティの人々だけでなくすべての人が、性別に関する髪型や服装といった「性表現」を通じて社会と関わっています。すべての人の性表現を尊重し、理解を深めることを心掛けましょう。
- 差別的なニュアンスを持つ言葉やジェスチャーは使わない
日本国内で使われる、「おかま」「ホモ」「レズ」といった言葉や、「片方の手の甲を頬に近づける」などのジェスチャーには、差別的なニュアンスがあります。これらは歴史的に性的マイノリティを差別する目的で使われてきたため、現代でも差別的な意味を含むことが多いです。当事者自身が自虐的にこれらの言葉を使うことがありますが、それと非当事者が安易に使うこととは、まったく意味が異なります。非当事者がこれらの言葉を使うことで、意図せず差別的な意味を伝えてしまうことがあるため注意が必要です。性的マイノリティに対する尊重を心掛け、差別的な言葉やジェスチャーは避けるようにしましょう。
- アウティングは絶対に行わない
「アウティング」とは、本人の了解や同意を得ずに、性的指向や性自認などの秘密を他人に暴露することです。これは性的マイノリティの人々にとって深刻なプライバシー侵害であり、本人を差別や偏見にさらし、精神的・社会的に重大な影響や苦痛をもたらす危険性があります。アウティングは絶対に行なってはなりません。もしアウティングの被害にあった場合は、人権相談室や学生相談室に相談してください。
- 相談窓口を活用する
性的マイノリティが安心して相談できる学内の相談窓口を活用しましょう。本学では適切なサポートが受けられる体制が整っており、困りごとや悩みを抱えた際には気軽に相談することができます。また、友人や同僚に性的マイノリティであることをカミングアウトされ、そのことで悩んだり困ったりしている場合も、同様に相談窓口を活用することができます。困ったときは一人で抱え込まず、相談窓口に相談してください。
- 相談者(当事者)の了解なく、相談内容を第三者に話すことはありません。相談者のプライバシーを厳守します。
- SOGIの多様性に関する知識を身につけ、多様な性のあり方を尊重・受容します。すべての相談者に対して公平かつ尊厳を持って対応します。
- 相談内容がいかなるものであれ、相談者が安心して話せるよう、温かく安全な環境を提供します。
- 相談内容に応じて、必要と思われるサポートやリソース(学内外の支援機関への紹介など)を提供します。相談者が必要とするサポートを得られるよう努めます。
- 相談は一度きりではなく、継続的な支援を提供します。長期的な視点で相談者をサポートします。
2.本学での具体的対応 【学生相談窓口】 ※教職員の相談窓口は総務課または人権相談室
大学に配慮を求めたい、または相談したい場合の主な窓口(担当部署)は以下の通りです。
- 健康診断 【窓口:学生課・医務室】
本学では男女別に診断日を設けています。大学に配慮を希望される学生の方は、学生課または医務室にご相談ください。
- 通称名の使用/氏名の表記 【窓口:学生課】
通称名の使用を希望される方は、学生課にご相談ください。詳細な手続等についてご案内します。
- 性別変更/性別表記 【窓口:学生課・医務室・教職支援室・人権相談室・学生相談室】
- 本学では入学試験の出願時に提出された調査書の性別を学籍上の性別として登録・管理しています。性別の変更を希望される方は、戸籍上での変更がわかる資料を持参の上、学生課にご相談ください。
- 基本的に本学が発行する学生証や証明書類(成績証明書、在学証明書、卒業見込証明書 等)には性別を表記しておりませんが、「健康診断証明書」には性別を表記しています。「健康診断証明書」の性別表記に関するご相談は、学生課または医務室にお越しください。
- 教職課程の受講者で、教員資格免許の取得を希望する場合には、教育実習の際に性別の提示が必要となります。性別の提示について不安を感じるなど、配慮が必要な場合は、教職支援室、人権相談室または学生相談室にご相談ください。 ※必要に応じて関係部署と連携して対応します。
- 学生生活上の配慮 【窓口:学生課】
- 学内施設(更衣室、シャワー室、トイレなど)の利用について配慮が必要な場合、まずは学生課にご相談ください。 ※必要に応じて他の担当部署へお繋ぎします。
- 学内には「誰でもトイレ」が設置されています。 ※学生手帳アプリに案内図が掲載されています。
- ゼミや部活の合宿などで配慮を求めたい場合は、事前に担当教員へ相談するか、学生課にご相談ください。 ※必要に応じて他の担当部署へお繋ぎします。
- 就職活動・インターンシップ 【窓口:キャリアセンター・人権相談室・学生相談室】
戸籍とは異なる性別で就職活動やインターンシップをしたいなどの相談がある場合は、キャリアセンター、人権相談室または学生相談室にご相談ください。 ※必要に応じて関係部署と連携して対応します。
- SOGIに関する相談 【窓口:人権相談室・学生相談室】
自分の性のあり方について悩んでいる、友人にカミングアウトやアウティングをされて悩んでいる、 性に関わる授業内のトラブルなど、SOGIに関わることについては人権相談室または学生相談室にご相談ください。付き添いの方の了解が得られていれば、同行もOKです。
- 【SOGIに関する主な学生相談窓口】
- 人権相談室 1号館2階 ☎042-328-7826
- 学生相談室 1号館2階 ☎042-328-7722
- 学 生 課 6号館1階 ☎042-328-7753
- 医 務 室 6号館1階 ☎042-328-7760
- 教職支援室 1号館2階 ☎042-328-7899
- キャリアセンター 6号館2階 ☎042-328-7750
3.学内で直面する可能性のある事例
以下は、無自覚であっても相手の尊厳を損なったり、重大な人権侵害に繋がったりする恐れがあるケースの事例です。
- 学生同士の関係の中で
- 「キミって彼氏/彼女いないの?」、「好きな男性/女性のタイプは?」、「イケメンなのになんで彼女いないの?」など、異性愛を前提とした質問や発言を行う。
- 「心が女なら俺も女子トイレに入れるよね」、「お前本当はゲイなんじゃないの?」など冗談を装い、差別的な発言をする。
- 「本人から聞いたんだけど、実は彼ゲイなんだよ」、「あいつバイセクシュアルなんだって。でも他の人には内緒にしておいてね」など、本人の了解を得ずにアウティング(第三者に暴露)する。
- 友人からカミングアウトや相談された際に、「一時の気の迷いだから気にするなよ」、「いつか治ると思うから大丈夫だよ」など、善意で言ったつもりでも、結果的に当事者に対し非受容や拒否の態度を示してしまう。
- 教員が講義やゼミにおいて
- 受講者名簿あるいは外見から推測される性別に従って呼称(「~くん」「~さん」など)の使い分けをする。
- 「今どきは『世の中には男と女しかいない』とか言ってはいけないんでしたね」などと、あたかも発言に気を付けているかのように装い、性の多様性について暗に揶揄する。
- 「私も良くわからないのですが、最近はLGBTQとかいう人たちもいるんですよね」などと、あたかもLGBTQ当事者が自分たちとは異質な「他者」であるような発言をする。
- ゼミ合宿で、学生が性的マイノリティであることを理由に他の学生と部屋を分けてほしいと担当教員に申し出たところ、即座に拒否したり、本人の了解を得ず他のゼミ学生に当人の要望の内容や理由を話したりしてしまう。
- 事務職員が窓口対応で
- 事務手続きの際、性別について「男女のどちらかに○をしてください」、「性別欄の記入が漏れています」など、男性か女性かしか選べないことが当然であるような対応をする。
- 事務窓口で周囲にいる他の人にも聞こえるくらいの(大きな)声で「性別変更の手続きをしたいのですね」、「健康診断に個別の配慮をご希望ということですね」と聞き返すなど、プライバシーへの配慮が乏しい対応をする。
- 事務窓口の担当者が本人の同意のないまま、ゼミや授業の担当教員に「受講学生が氏名を変更したいそうです」などと個人情報を共有する。
- 旧名(デッドネーム)を使用しないよう通知しているにもかかわらず、事務窓口の担当者や相談担当者が、本人の同意のないまま、学生が過去に使っていた旧名を使って学生と話をする。
以上は、SOGIに関連する対応において配慮・注意すべき事例のほんの一部に過ぎませんが、これらの事例を参考に、相手の人権を尊重し、プライバシーに配慮した適切な対応を心掛けることが大切です。対応がわからない場合は自身で判断せず、人権相談室に相談しながら対応してください。すべての学生及び教職員が安心して学び、働き、相談できる環境を整えるために、大学のすべての構成員がSOGIへの理解を深め、日々の行動に反映させていきましょう。
4.基本用語の解説
- 総合的な用語
- ①SOGI(ソジ)
「Sexual Orientation and Gender Identity」の頭文字をとった略称。性的指向と性自認を総称するもので、人がどの性別の人を好きになるか、どのような性別として生きるかなど、すべての人の性のあり方を包括的に捉える概念。
- ②LGBTQ(LGBTQ+)
レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性別越境者)、クィア(従来の性別や性的指向に収まらない人々)、クエスチョニング(自身の性的指向や性自認について模索中の人々、わからない人々、決めたくない人々)、その他を含む性的マイノリティを表す総称。
- 性的指向に関する用語
- ①性的指向
個人がどの性別に対して恋愛感情や性的魅力を覚えるかを示す概念。異性愛、同性愛、両性愛などが含まれる。
- ②アセクシュアル/無性愛
他者に対して性的魅力を感じない、またはほとんど感じない状態。恋愛感情を抱く場合もあるが、性的接触には興味を持たないのが一般的。
- ③パンセクシュアル/全性愛
性別に関係なく他者に対して恋愛感情や性的魅力を抱くこと。または、そのような性的指向を持つ人自身のこと。
- 性自認や身体的特徴に関する用語
- ①性自認
自分自身がどの性別であると認識し、どの性別として生きたいかという自己の認識。男性、女性、両方、またはそのどれでもない場合がある。
- ②トランスジェンダー
生まれた時に与えられた性別と自身の性自認が一致しない人。または性自認が男女2つのカテゴリーに収まらない人のこと。
- ③Xジェンダー/ノンバイナリー
性別が男性や女性のいずれかに限定されず、その中間やその他の性別だと自認する人々のこと。自分の性別が男性とも女性とも完全には一致しないと感じる。
- ④インターセックス
生物学的な性の特徴が、典型的な男性や女性の身体の特徴に完全には一致しない身体的状態を持つ人。染色体、性器、ホルモンの構成において多様な生物学的特性を持つ。
- 支援者に関する用語
- ①アライ
性的マイノリティの人々を理解し、支持する立場を取る非当事者。LGBTQ+コミュニティの平等と権利を支援する人を指す。
- 偏見や差別に関する用語
- ①フォビア(ホモフォビア、バイフォビア、トランスフォビアなど)
LGBTQの人々に対する偏見や差別のこと、あるいは偏見や差別をする人のこと。偏見に基づく嫌悪感や恐怖などから、否定的な態度や攻撃的な行動などが発生することもある。
- 行動や状況に関する用語
- ①カミングアウト
これまで公にしていなかった自分の性的指向や性自認を周囲の人に表明すること。
- ②アウティング
他者に開示していない本人の性に関する情報や秘密(性的指向や性自認など)を、本人の意思に反して、または本人の了解や同意を得ずに、他人に暴露すること。
- ③デッドネーミング
トランスジェンダーやノンバイナリーの人が過去に使用していた名前(デッドネーム)を、本人の同意なしに使用すること。
- 広範な概念に関する用語
- ①ジェンダー
社会や文化が作り出す性別の考え方。性別による役割や期待される行動規範を含み、男性らしさ、女性らしさだけでなく、その他の性のあり方も含む。
- ②セクシュアリティ
個人の性的指向、性自認、およびそれらに関連する表現や感情の総体。また、性的欲望や性的行動を含む広範な概念。
おわりに
この基本方針及びガイドライン(以下「ガイドライン」という)は、性的指向と性自認(SOGI)を焦点としているものであり、学生・教職員をはじめとするすべての本学構成員を対象としています。SOGIについては、すべての構成員が「当事者」であり、避けて通ることのできない問題です。
ただ、SOGIについては人によって様々な見方があり、人々の価値観、文化的背景、教育、宗教、個人的な経験などにより、SOGIに関する理解や受け入れ方が異なります。そのため、SOGIについての対話は、様々な視点や背景を尊重しながら行うことが大切となります。
このガイドラインをお読みになると、結局は人に対して何も言えなくなるのではないか、何も言わなければいいのではないかという考えに陥る方がいるかもしれません。しかし、誰もがそのような「守り」の姿勢では、お互いの理解が深まりませんし、無意識の偏見を持ち続けることにもなります。その結果、偏見や誤解が解消されず、より良いキャンパス環境の実現が遠のくことにもなりかねません。
もし対応に悩んだり、苦慮したりすることがあれば、まずは遠慮なく人権相談室にご相談ください。特に教員の皆さんは、授業やゼミ等で戸惑われる場面に遭遇することがあるかもしれませんが、人権相談室を活用して経験と知識を積み重ね、事例を共有することで、共により良い対応策を模索し、実現していければと考えています。
このガイドラインが皆さんを委縮させてしまい、対人的なコミュニケーションを恐れたり控えたりするといった方向に作用せず、むしろこれをきっかけとしてSOGIについてお互いが率直に語り合い、「無意識の偏見」をお互いに自覚しあうことで、誰もが安心して過ごせる「より良いキャンパス環境の実現」につながることを祈念しています。なお、このガイドラインの制定にあたっては、学生支援会議の下に設置された「SOGI検討ワーキンググループ」で検討を重ねてまいりました。今後ガイドラインの改訂にあたっては、人権委員会が担当組織となり、改訂することといたします。
東京経済大学
※「おわりに」は「東京大学における性的指向と性自認の多様性に関する学生のための行動ガイドライン」(https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/actions/sogi.html)の同項目を一部改変しました。上記ガイドラインはクリエーティブ・コモンズ ライセンスCC BY-NC-SA(https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/deed.ja)の下で利用することができます。